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エッセイ101:葉 文昌 「台湾版クールビズ」

インドネシアのバリ島で開催されているCOP13(国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議)で、日本は地球温暖化防止交渉にマイナスな発言をしたとして「化石賞」をもらったりして苦戦している。しかし、僕から見ると、日本では地球温暖化の軽減策として、社会が一丸となってCO2排出量低減に取り組んでいるように思える。一昨年来政府が音頭をとって世間を賑やかにしたクールビズがそうである。夏の間、オフィスで上着とネクタイを未着用として、エアコンの温度設定を高めの28℃に設定するということだ。ちなみに、冬の間は、もう一枚多く着て、設定温度を低めの20℃に設定するウォームビズが提唱されている。

 

台湾ではもともとビジネスの場で滅多にネクタイを着用しないのであるが、日本のクールビズのお陰で台湾人はルーズな格好に大義名分を得たようだ。例えばである。去年夏、政府主催の太陽電池フォーラムでの出来事だ。その席で官僚が挨拶した。「日本は地球温暖化対策としてネクタイ未着用としている。だから私も率先してノーネクタイにした」と自慢げに言っていた。台湾では学歴とは無関係にいろいろな人からこのような発言が聞かされるものなのだが、これにはいつも怒りを覚える。なぜならば台湾の公の場ならどこでもエアコン温度は気持ちよく涼しい。誰も28℃設定を口にしない。僕は決して環境にやさしい人間ではないのだが、しかし社会の上から下まで安易に「ノーネクタイ=環境にやさしい、だからノーネクタイ」と、考えていることにもどかしさを感じる。権利(=ノーネクタイ)あれば義務(=エアコンの温度設定は高め)が伴う。角度を変えて言えばギブアンドテークなのである。しかし、台湾でそうならないのは、教育全体が思考より記憶重視であるために目先の権利や利益しか見えなくなってしまうからなのかも知れない。

 

台湾でもエコロジーの機運はあり、リサイクルも一応まじめにやっている。しかしやり方がどこかアンバランスで本気でエコロジーしたいのかわからない。大学でPC節電の宣伝を聞いたことはないし、学生も進んでPC節電はしない。若い人さえ短距離の移動もバイクか車を使う。政治家は政治家で、環境保全へのアピールをさせれば、「台北市はエコロジーの見地から、ゴミ回収車は廃サラダ油使用車に買い換えました」である(冒頭の官僚)。金を使えばエコロジーができると考えているようで自己要求はなにもない。その一方で台北市のバイクは相変わらず排気を都市中に充満させている。学生も学生だ。反化学工場建設、反核運動の急先鋒に立つ学生はいるが(その前にスクーターを自主規制しろといいたいが…)、大抵は偽の運動家で社会人になった途端でかい外車を乗り回すようになる。上から下までなにもかもが贋物なので、台湾のエコロジー志向がどこまで本物かも疑問に思ってしまう。

 

この点、東京の人たちは偉い。どこかがハイブリッドカーを開発しただの、太陽電池出荷量世界一だの、のことではない。若い女性も長い距離を歩く、電車を使う、アイドリングはできる限りしない(台湾ではこの考えすらまだない)、エアコンの高い温度設定にも我慢できる。豊か(台湾との比較)でありながらこのようにたくさんの自己要求ができるから偉いと思うのである。

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchuang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2000年に東京工業大学工学より博士号を取得。現在は国立台湾科技大学電子工学科の助理教授で、薄膜半導体デバイスについて研究をしている。
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