SGRAかわらばん

エッセイ011:マキト「環境にみる多様性の中の調和」

SGRAの基本的な目標は「多様性の中の調和」を通じて「良き地球市民」を実現することである。僕は専門の経済学を通じてこの課題に取り組んできた。日本は欧米社会とは違う経済システムと経済発展を世界に提示してきたのだから、この多様性を維持すべきだと強調してきた。「グローバル化」は「グローバル・スタンダード化」ではないと。

 

SGRAフォーラムでは、経済学以外の分野においても、この「多様性のなかの調和」を考える機会があった。2003年の夏に軽井沢で開催された第12回フォーラム「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」の時、環境においてもこの原理が重要であることを実感した。僕は、そのフォーラムで、京都議定書に対するフィリピン政府の対応について報告した。その時、サンゴ資源に関しては、オーストラリアとインドネシアとともに母国のフィリピンも、世界のトップ3に入っているという、僕にとって嬉しい発見があったのだ。海の底を綺麗に飾るだけではなく、サンゴは海洋の多様性を育む役割を担っていること、日本の主な海流は東南アジアから北に流れてくることを指摘した。日本とフィリピンの「海の関係」は思ったより深かっ
た。

 

今年、フィリピンで開催された海洋専門家の国際的会議において、フィリピン列島は海洋の多様性の中心だと宣言された。サンゴの重要さが一層強調された。ただ、それと同時に、その会議は警鐘も鳴らした。他の東南アジア諸国に比べて、フィリピンはこの海洋資源の利用がもっとも非効率なのである。フィリピンのサンゴは、ブラジルの熱帯雨林と同じくらい環境に大切なものだから保全すべきだと政策提言が行われた。というのはブラジルの熱帯雨林と同様、フィリピンのサンゴも「経済開発」という口実で、どんどん破壊されつつあるのだ。

 

今、フィリピンのこの大切な資源がどのぐらいが残っているのか、不安に思うことがある。インドネシアのサンゴの半分はもう破壊されているという報告を聞いたことがある。フィリピンも同じぐらいであろうか。一回失った資源を取り戻すことができるのだろうか。

 

今、沖縄では珊瑚礁の再生で騒いでいる。なかでもサンゴの養殖による再生プロジェクトを世界で初めて行なっている阿嘉島にある研究所が注目を集めている。珊瑚は動物で、1年に1回だけ、赤ん坊を産む。その時期を忍耐強く待てば養殖で使える「もと」を採ることができる。サンゴの養殖技術は、資源が少ない国から資源が豊かな国への贈り物になるだろう。

 

今年、マキト家では大きな決断がなされた。マニラの都会の便利さを捨てて、できたら海の近くに移住する。そういえば、幼いころに海の近くに長く住んだことがあった。毎週末のように海岸に連れていってもらって真っ黒になった。だから、ある意味でこの移住は原点に戻るわけだ。多様性の中心に選ばれたフィリピンの海は、そのとき一段と僕の目に美しく見えるであろう。

 

ケネディー大統領は、「人の血や汗や涙には海と同じ割合の塩が含まれている。ですから、海に戻るときに、我々は原点に戻っているだけです」と、海を賞賛した。銃撃で倒れる2ヶ月前だったという。人間は海と結びついているのであり、これからもこの『水球』と呼ぶべき惑星は、聖なる生命の揺りかごであると信じている。

 

お勧めのウェブサイト(1と2は、URLが長いので検索してください)
1.“Philippine Environment Monitor 2005: Coastal and Marine Resource Management” 世界銀行のサイト
2.“The center of the center of marine shore fish biodiversity: the Philippine Islands” Environmental Biology of Fishesのサイト
3.阿嘉島にある研究所 http://www.amsl.or.jp/ 

 

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マックス・マキト(Max Maquito)
SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師

 

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