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エッセイ007:シルヴァーナ・デマイオ「ナポリ大学オリエンターレと日本語教育」

ナポリ大学オリエンターレは1732年に「コッレージョ・デ・チネーシ(中国人寄宿学校)」の名前で設立された。1710年から1724年まで清朝の中国に滞在したマッテオ・リーパは5人の中国人をつれて帰国した。当時、コッレージョ・デ・チネーシでは、カトリック宣教師になろうとした中国人の宗教教育が行われた。しかし、それだけではなく、オステンド会社及びオランダ東インド会社に必要な通訳の教育も行われた。

 

イタリア統一後も、コッレージョ・デ・チネーシにはふたつのセクションがあり、ひとつでは宣教師の教育、もうひとつでは宗教教育と関係なく中国語などが教えられていた。1868年に「レアレ・コッレージョ・アジアティコ(王立アジア寄宿学校)」に改名された。1870年代の本機関の規約には日本語講座が記録されているが、実際にジュリオ・ガッティノニによって初めて日本語講座が設けられたのは1903年のことである。文哲学部における日本語講座の伝統は長いが、1970年代の前半に政治学部ができ、そちらにも独立した日本語講座が設立された。

 

イタリアのほとんどの大学にはキャンパスがないのはご存知の通りである。ナポリ大学オリエンターレもナポリ市内の建物を借りたり、買ったりしている。現在、アジア研究科附属図書館、教員のオフィスはパラッツォ・コリリアーノにあり、教室、ラボ、各学部長室などはパラッツォ・メディテッラネオにある。

 

数年前から、日本語を勉強し始める学生は漫画、アニメ、日本のテレビゲームなどに育てられてきた世代である。したがって、日本文化への関心があるということは間違いない。しかし、文化的浸透が進み、日本文化の理解は前提になってきていて、それと結びつく将来の職業を考えて、オリエンターレに入学してくる学生が増えてきている。

 

学生の日本語学習動機をまとめてみると、次のとおりである。
1) 和伊の翻訳をしたい。
2) 日系企業に就職したい。
3) 観光に結びつく就職がしたい(観光ガイド、添乗員)。この場合、国家試験を受けて州の免許をとらなければならない。
4) 日本文学、日本史、日本美術史などについて研究したい。
5) 外交官、国際機構またはNPOの役員になりたい。

 

最後にナポリ大学「オリエンターレ」の学生のための留学の可能性について考えてみたい。現在、7つの日本の大学と交換留学協定を締結し、わずかだが奨学金を付与し、各大学に毎年、平均2名の学生を本学留学生として派遣している。更に、数年前から、オリエンターレの卒業生は、在イタリア日本大使館の公募により、JET プログラム(日本の地方公共団体が外務省や文部科学省などの協力の下に実施している語学指導等を行う外国青年招致事業)に参加することにもなった。その他、エラスムス・プログラム(EUが実施している欧州の学生・教員交流事業)があり、毎年、ヨーロッパの5つの大学に学生を派遣している。さらに、将来、学生の海外留学のチャンスを増やすための計画をたてているところである。

 

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シルヴァーナ・デマイオ(Silvana De Maio)
ナポリ東洋大学卒、東京工業大学より修士号と博士号を取得。1999年?2002年レッチェ大学外国語・外国文学部非常勤講師。2002 年よりナポリ大学オリエンターレ政治学部研究員。現在に至る。主な著作に、「1870年代のイタリアと日本の交流におけるフェ・ドスティアーニ伯爵の役割」(『岩倉使節団の再発見』米欧回覧の会編 思文閣出版 2003)。
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