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エッセイ005:範建亭 「上海の住宅事情」

上海の夏はとても蒸し暑い。幸い7月から大学が夏休みに入るので、学校に行かなく
てもいい。だが、夏休みを利用してやらなければならないことがたくさんある。その
うち、一番頭を悩ませるのは、自宅の内装に手入れをすることである。

 

僕の住まいは大学のキャンパスに隣接している12階建ての新築マンション。同じ敷地
に同様のビルが三棟もあるが、そこに住んでいる人はほとんど大学の先生や職員であ
る。昔のイメージで言うと、これは大学の教師用宿舎だと思われがちだが、実際はそ
うではない。これらは確かにうちの大学が開発業者として建てたマンションだ。しか
し、もう大学のものではない。というのは、大学の住宅制度もすでに変わっており、
新しく建てた住宅を売るものとし、その所有権(厳密に言えば使用権)は購入した人
のところにあるからだ。僕は3年前に運がよく抽選でその購入権利を手に入れた。し
かも就職の手続きを完了した直後のことだった。なぜ抽選を行わなければならないか
というと、売る値段は市場価格より30%ぐらい安いから、購入希望者が多く、それ以
上公平な手段がないからである。

 

マイハウスを手に入れても、スケルトンなので内装工事は自分が探した専門業者に頼
まなければならない。100平米の広さで内装工事は2ヶ月かかった。その間、デザイン
から建材の購入まで、また時には現場作業の監視をも自分でやらなければならないの
で大変だった。内装工事を全部業者に委託したのだから、本当はそこまでしなくてい
いのだが、施工の手抜き、建築材料の品質欠陥などがとても心配なのでそうするしか
なかった。ところが、住み始めてから1年もたたないうちに、リビングルームの壁や
天井にあちこち裂け目が出てきた。昨年の夏に1回直してもらったが、今年もまた同
じようなことが起きた。その業者に何度か連絡した末、やっと先週1人の作業員を派
遣して直してくれた。2年間の保証期間があるから、お金が要らなくてよかったが、
室内の工事なので家具やフローリングは結構汚れてしまった。もちろん、掃除や整理
などの仕事はその作業員とは「無関係」で、家内と二人で片付けるしかなかった。

 

とは言っても、いまの住まいには、かなり満足している。近年、中国では住宅の品質
についての苦情が多くなっている。地盤沈下、壁破裂、雨漏り、水道管破裂、材質の
欠陥・手抜きのような欠陥住宅問題がよく報道されている。それに比べると、うち
は、内装には問題があるものの、建物自体は粗悪な住宅ではないようだ。

 

そして、この住まいは職場に近いだけではなく、部屋の広さ、周りの環境、また購入
の値段などから考えても悪くないと思う。最近発表された「2005年城鎮部屋概況統計
公報」によると、上海の一人当たり住宅建築面積は33平米で全国第二の高さに達し
ており、全国平均の26平米をかなり超えている。そして、日本で苦学していた頃の
住まいを思い出すと不満はない。また、購入金額についてもそうである。近年、中国
はバブル気味で、全国的に不動産ブームが起きている。その結果、上海をはじめ、各
地の住宅価格が急速に上昇している。自宅の値段を例にすると、もともと市場価格よ
り低く購入したものの、わずか三年間で倍近く値上げした。上昇した分は少なくとも
7-8年分の収入に相当するものだ。そう考えると、早く帰国してよかったなあと自己
満足している。

 

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範建亭(はん・けんてい☆Fan Jianting)
2003年一橋大学経済学研究科より博士号を取得。現在、上海財経大学国際工商管
理学院助教授。 SGRA研究員。専門分野は産業経済、国際経済。2004年に
「中国の産業発展と国際分業」を風行社から出版。
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