SGRAイベントの報告

  • 2009.06.17

    第35回SGRAフォーラム「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」報告

     2009年6月7日(日)、東京国際フォーラムにて「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」をテーマに第35回SGRAフォーラムが開催された。   本フォーラムは「ITと教育」チームが担当した。昨年フォーラム後の懇親会で話題になった「子どもに携帯電話をもたせるべきか」という報道から発展させ、「ITは子供にどのような影響を与えるのか、本当に子供教育に役立つのか」という問いをベースに、抽象的ではなく、具体的に議論ができるよう、「テレビゲーム」に焦点を絞り、子供に与えるよい影響、悪い影響を考える会として企画された。   フォーラムでは、今西淳子SGRA代表の開会の挨拶に続き、3人の専門の先生方とSGRA研究員による研究発表が行われた。 「現代社会はテレビゲームをどう受容してきたか」と題してテレビゲームの影響を多面的に捉える必要性を、東京大学大学総合教育研究センター助教の大多和直樹先生が説いた。大多和先生は、現代社会では、テレビゲームの議論が悪玉・善玉といった具合に二極化されやすいが、ニュートラルにテレビゲームを捉える必要があり、現代の子どもが、管理される学校化社会と、インターネット等による情報化社会の双方に取り込まれつつあることを力説し、さらに、これによる悪影響を学校が排除しようとする動きを指摘し、この排除あるいはコントロールは問題を解決するのかと問題提起した。 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生は、テレビゲームと子供の肥満の関係性について調査結果を発表した。アメリカでは男子の肥満はテレビ視聴時間と強く関連しているが、女子は運動頻度とテレビ視聴時間の両方が関連しているとの調査結果だった。日本では現段階で信頼度の高い調査・研究は少ないが、過去25年間を見ると、日本の子供たちの肥満者率は増加してきている。さらに、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野客員研究員であるU Htay Lwinさんは研究結果の少ない日本の子供(那覇市、名護市の6歳から15歳の児童)を対象に健康調査を行った結果を発表した。日本でもやはりアメリカと似た結果が出た。   最後に、テレビゲームが子供の心理に与えるポジティブな影響とネガティブな影響について、慶応義塾大学メディアコミュニケーション研究所研究員である渋谷明子先生からの報告があった。空間処理能力、視覚的注意、帰納的問題解決能力などが代表的なポジティブな影響で、ネガティブな影響としてテレビゲームの過度な依存による社会性の欠如などが指摘された。ご専門である、子どもの暴力化については、とりあげて心配しなければならないほど強い影響力はないという調査結果がでているとのことだった。 パネルディスカッションでは参加者からたくさんのご質問をいただき、白熱した議論ができた。ゲームの地域性、家庭背景、その人にとって価値などにも関係していることが指摘され、無限に子供にゲームを与える、あるいは必要以上にゲームを制限することの欠点についても討論した。明確な良し悪しの結論は出ないものの、子供の能力を引き出す、あるいは、子供の成長を助けるゲームは存在するのは間違いなく、適宜に教育に取り入れることが必要であるという議論であった。最後にパネル進行役である自分も驚いた結果であるが、会場の40数名の聴講者の約半数が「自分の子供にゲームを与えたい」と挙手によって答えた。時代の変遷に伴い、ゲームに対する観点も変化しつつあり、テレビゲームとのかかわり方も今後少しずつ変わっていくだろうと想像がつく。   最後に、この場を借りて、ご講演いただいた4名の先生方と最後まで聴講していただきアクティブにディスカッションに参加してくださった会場の皆様に感謝の気持ちをお伝えするとともに、司会のナポレオンさんおよび会場の設営を手伝っていただいたSGRA研究員のみなさまにお礼を申し上げたい。 フォーラムの写真はここから  ご覧ください。 ------------------------------ 江 蘇蘇(こう・すーすー ☆ Jiang Susu) 中国出身。留学する父親と一緒に来日。日本の高校から、横浜国立大学、大学院修士課程・博士課程を卒業。専門分野は電子工学。現在(株)東芝セミコンダクター社勤務。SGRA研究員。 ------------------------------ 2009年6月17日配送
  • 2009.03.03

    第8回日韓アジア未来フォーラム・第34回SGRAフォーラム「日韓の東アジア地域構想と中国観」報告

    2009年2月21日(土)、東京国際フォーラムで「日韓の東アジア地域構想と中国観」をテーマに第8回日韓アジア未来フォーラムが開催された。前回のグアムフォーラムにおいて「東アジア協力」と「ソフトパワー」というキー概念を念頭に置きながら、中国に対する見方の日韓の差に注目し、今後具体的に検討していくことにしたのを受けて、今回のフォーラムでは、日韓の東アジア地域構想について比較の視座から考えてみることにし、その大きなポイントとなる中国観の日韓における相違などについて検討する機会を設けた。   フォーラムでは、今西淳子(いまにし・じゅんこ)SGRA代表と韓国未来人力研究院の李鎮奎(イ・ジンギュ)院長による開会の挨拶に続き、4人のスピーカーによる研究発表が行われた。まず 名古屋大学の平川均(ひらかわ・ひとし)氏は20世紀から現代までの日本における主なアジア主義について思想と実態とに分けてその特徴を明らかにした上で、昨今の東アジア共同体ブームに関連して、現在が歴史の再現ではないことを力説するとともに、日本の東アジア共同体構想に対する立場は米国配慮と中国牽制であるとした。延世大学の孫洌(ソン・ヨル)氏は、韓国の地域主義について「東北アジア時代構想」と「東北アジアバランサー論」を主な事例として取り上げながら、地域の範囲、性格、アイデンティティ、方法論の側面から日本や中国のそれとの違いを明らかにした。そしてミドルパワーとしての韓国のバランサーとしての役割を強調した。東京大学の川島真(かわしま・しん)氏は「日本人の中国観」について、これまでの日本の対中観を歴史的な経緯や、近30年間の調査結果、そして昨年の状況などについて概括した。とりわけ、東洋/日本/西洋という三分法の下にあった日本の中国観は戦後日本にも継承され、中国があらゆる分野で存在を強めたことで、日本内部で拒否反応が起きてきたと主張した。また、現在も、日本では中国についての否定的な言説が支配的であるが、中国そのものへの不信感は政治や歴史認識問題ではなく、しだいに生活そのものに脅威を与える存在として中国が認識されつつあるとした。そして最後の発表者としてソウル大学の金湘培(キム・サンベ)氏は「韓国人の中国観」について発表を行った。21世紀東アジアにおける世界政治はソフトパワー(soft power)や国民国家の変換 (transformation)に注目すべきであるとした上で、こうした文脈から理解される中国の可能性とその限界とは、取りも直さず技術・情報・知識・文化(これらをまとめて「知識」)と「ネットワーク」という21世紀の世界政治における二つのキーワードにいかにうまく適応できるかを基準にしながら評価できるものであると主張した。   パネル討論では、SGRA研究員であり北陸大学の李鋼哲(り・こうてつ)氏は、「中国からみた日韓の中国観 」について、対中国認識における日韓両国と国際社会の間の乖離、対日本認識における中韓両国と国際社会の乖離、中国観と現実の中国の間にみられる乖離に触れつつ、「求大同、存小異」の姿勢を力説した。このほかにもパネルやフロアーからたくさんの意見や質問などが寄せられたが、時間の制約上議論は惜しくも懇親会の場に持ち越された。   今回のフォーラムは67名の参加者を得て大盛会に終えることができたが、これには同時通訳という「重荷」をボランティアーで快く引き受けてくれたSGRA会員の方々の存在が大きかった。この場を借りて感謝の意を表したい。例年だと、フォーラム終了後は「狂乱」の飲み会に変わってしまうことが多かったが、今年はグローバル金融危機のしわ寄せもあって静かな夜に終わったような感じがする。来年を期待してみたい。   *フォーラム当日の写真を下記よりご覧ください。    足立撮影    フェン撮影   -------------------------- <金 雄熙(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee> ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科より修士・博士。論文は「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。韓国電子通信研究院を経て、現在、仁荷大学国際通商学部副教授。未来人力研究院とSGRA双方の研究員として日韓アジア未来フォーラムを推進している。 -------------------------   2009年3月3日配信
  • 2008.12.19

    第33回SGRAフォーラム『東アジアの経済統合が格差を縮めるか』報告

    SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームが担当する第33回SGRAフォーラムは、2008年12月6日(土)の午後、東京国際フォーラムガラス棟G402会議室にて開催された。今回のテーマは「東アジアの経済統合が格差を縮めるか」であった。フォーラムは、研究チームのサブチーフの李鋼哲さんの司会で始まり、東茂樹先生(西南学院大学経済学部教授)の基調講演の後、SGRA顧問の平川均先生(名古屋大学経済学研究科教授)、ド・マン・ホーン先生(桜美林大学経済経営学系講師)、そして研究チームのチーフを務めるマキトの3名による感想と問題提起が行われ、休憩を挟んでパネルディスカッションというプログラムであった。    基調講演で東先生は、最初に、SGRAがめざす「誰にでも分かるように」という趣旨に則って、 FTA(Free Trade Agreement自由貿易協定)についての基礎的な説明をしてくださった。主流な経済学では、FTAは貿易を促進し、企業の生産性に対してあらゆる便益を与えるとしている。WTO(World Trade Organization世界貿易機関)もこのように考えているので、積極的に貿易の自由化を押し進めてきたが、いわゆるドーハ開発ラウンドという、貿易障害をとり除くための交渉にはいまだに決着がついていない。そこで、行き詰まった状況を打開するために、WTOが条件付きで容認せざるを得ないFTAが盛んに提携されている。さらに、「物」の国境を越えた売買だけではなく、サービスや貿易関係の取り決めまでを取り入れたEPA(Economic Partnership Agreement 経済連携協定)まで展開しつつある。    WTOが進めている多国間自由貿易と違って、FTA(EPAを含む、以下同じ)は二カ国或いは地域間の交渉になる。東先生はご専門の政治経済学の視点からFTAの交渉過程を検討し、国家間の戦略的なやり取りとして捉えた。つまり、2カ国間或いは地域間でFTAが結ばれることにより、第3国/地域が不利な立場に落とされる可能性があるのでFTAの獲得のラッシュが発生し、複雑に絡み合う貿易協定が生み出されている。その一つのデメリットとして、生産地の規制が取り上げられた。あるFTAの輸出国にとっての便益を得るためには、その輸出した製品の価値の一定の割合はその国で実際に生産されたことを証明する義務があり、その手続きにかかるコストが高くなるからである。東先生は、最後に、日本の自由貿易の交渉の仕方について触れ、東アジアと共生できるような新しい交渉戦略の構築を呼びかけた。   「感想と問題提起」のコーナーでは、3人のコメンテーターが東先生の論文を参考に、FTA・EPAの日本の交渉を中心に感想と問題提起を述べた。まず平川先生は東先生の分析方法が新しい視点からの分析だと評価し、JETROの最新の白書を利用しながら、交渉の非妥協的態度、日本の貿易自由化率の低さ、情報不開示と相互不信(フィリピンへの有害廃棄物の輸出を事例として)の3つの問題点をとりあげた。そして、このような態度で日本が東アジアと結ぶFTAは、果たしてアジア共同体を導いていけるのか、という疑問を投げかけた。   次に、東南アジアの研究者を代表して、ホーンさん(ベトナム)とマキト(フィリピン)が、引き続き、自由貿易に関しての意見を述べた。ホーンさんは、ベトナムにとっては、現段階まで、一部を除き、市場の開放による経済的な効果は大きくないと主張した。特に、FTAの交渉を、先進国同士の場合、企業と企業の戦いだが、先進国と途上国の場合、先進国の企業と途上国の政府との戦いとみなし、結局、現状の交渉し方のままだと、FTAの締結によるデメリット(被害)を受けるのは途上国の民間企業であるから、これを克復するため、FTAの交渉と同時に、先進国から途上国の民間セクターの振興への協力と支援が必要だと主張した。     マキトは日本の通産省とJETROの報告書を利用しながら、東アジアにおける国際分業という日本の構想と日本自身のそれに対する理解とのギャップ、構想と現場とのギャップ、というふたつのギャップの存在により、自由貿易の交渉が余計に困難になっていることを指摘した。そして、東アジアの経済統合が格差を縮めるために、日本の独自の構想を生かした「STOP 格差!」を呼びかけた。   10分間の休憩を挟んで、4人によるパネルディスカッションが行われた。進行役の平川先生は会場からいただいた質問を整理して、3人の研究者に振り分けた。取り上げられた質問は、格差の定義、格差の解決の可能性、日本の独自性を巡るものなどがあった。詳しくは来年の春に発行予定のSGRAレポートをご期待ください。    当日の写真を下記からご覧いただけます。 足立撮影 ナポレオン撮影   -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。 --------------------------
  • 2008.10.03

    第3回SGRAチャイナフォーラム「一燈やがて万燈となる如く」報告

    講演:工藤正司(アジア学生文化協会常務理事) 「一燈やがて万燈となる如く~アジアの留学生と生活を共にした協会の50年~」 中国における第3回目のフォーラムは、9月26日(金)に延辺大学総合棟七階報告庁にて、9月28日(日)に北京大学外国語学院民主楼にて開催されました。2006年に北京大学で開催したパネルディスカッション「若者の未来と日本語」、2007年に北京大学と新疆大学で開催した緑の地球ネットワーク高見邦夫事務局長のご講演「黄土高原緑化協力の15年:無理解と失敗から相互理解と信頼へ」に引き続き第3回目です。今回は、50年にわたり東京で留学生の受け入れ態勢の改善に取り組んできたアジア学生文化協会(ABK)の工藤正司常務理事に、協会の創設者穂積五一氏の思想とABKを通して見た日本とアジアのつながり、そして民間人による活動の意義をお話しいただきました。   工藤さんは、「お国の発展ぶりに讃辞を送ることからお話を始めることになるのですが、私の本当の心を申しますと、それよりも前に、私の国・日本が過去に皆様のお国に行ったことをお詫びさせて戴きたい思いです」、「今日私がお話しするのも、私たちの協会や創設者のことを、誇るためでも、宣伝するためでもありません。敗戦した国で日本人は何を考え、どのように行動したか、そして、現在はどう動いているかを、1つの例として、私たちの協会とその創設者の人間を通してのぞいてみること、そして、それを通じて『公益事業を民間が行うこと』の意味を皆さんと一緒に考えてみて、もし、皆様にも参考になることがあれば、活用していただきたいということです」と講演を始め、戦前の日本に対する反省に立って「新しい戦後日本」を構想して設立されたABKと創設者穂積五一氏の思想、その後の協会の展開と工藤さんご自身の関わりを、パワーポイントで写真を映しながら話されました。そして、最後に、「日本に居る留学生たちは、今、いじめにあうのを恐れて、自由にものを言えないのではないか」「移民政策が定かでないのに、日本の労働力不足を補うために留学生の受け入れを急増させようという留学生30万人計画は危ないのではないか」「日本も中国も短絡的に相手を見ることが多すぎるのではないか。お互いの現在の状況を新しい姿勢で、もっとよく研究する必要があるのではないか」と問題提起し、「具体的提案があれば、私はABKが現在進めている改革に、文化交流の一環として、組入れることを真剣に検討する用意があると申し上げます」と結ばれました。   延辺大学フォーラムの参加者は、主に国際政治学を専攻する学生約150名で、日本と中国の教育や学生の違いについて等の質問がありました。北京大学フォーラムの参加者は、日本語学習者を中心とした北京大学、北京第二外語大学、北京語言大学、北京人民大学等の学生、日本留学中にABKや太田記念館に滞在した方々、渥美財団の渥美理事長他関係者など約80名でしたが、大学で日本語を勉強する学生さんは皆さんとても流暢な日本語で質問したので驚きました。ふたつのフォーラムを実現してくださった延辺大学の金香海さんと北京大学の孫建軍さんに心から感謝いたします。また、参加してくださったSGRA会員のみなさん、呉東鎬さん、金煕さん、張紹敏さん、朴貞姫さん、馮凱さん、宋剛さん、ありがとうございました。   (今西淳子)     ◆ 延辺大学の金香海さんより:   延辺大学のフォーラムでは、講演の後も、学生達の興味深い質問に対し、工籐さんは熱心に回答してくださり、会場は一貫して熱い雰囲気でした。その余蘊が去らず、30名の参加者達は、日本国際交流基金の援助で出来たばかりの「延辺大学日中ふれ合いの場」で立食パーティーを開き、ワインを交えながら、再び工籐さんから日中学生気質の違いや日本語教育についてのお話を伺い、夜が過ぎるのを忘れました。このように大きな共鳴を引き起こしたのは、やはり工籐さんの講演の内容とそのすばらしい人格のためであったと思います。 日本とアジアは長い文明交流の歴史がありました。日本は明治維新を通じて西洋と肩を並べる近代国民国家になりましたが、その過程でアジアを否定して西洋の価値観を取り入れて“空想的帝国”をつくろうとしたが失敗しました。この後、またアメリカの価値観を取り入れ、先進国になったけれども、ここにはいろいろな歪みが生じました。これがまさに、ABK創設者の穂積先生が、日本社会の疾病としたもので、敗戦直後から「アジアのために」アジアの留学生を支援してきた理由です。工藤さんは、日本の再生、そしてアジアの価値の回復と創造は、学生達の草の根の交流があって初めて、“一燈やがて万燈となるごとく”実現できると仰いました。大変優しく、すばらしい人格の持ち主で、文明に対する深い理解を持っていらっしゃる工藤さんを、私は非常に尊敬しています。     ◆ 北京大学の孫建軍さんより:   「留学」について深く考えさせられるお話でした。外国の進んだ技術や裕福な生活に憧れ、または外国語の習得や学術研究に役立たせるために、留学したい人が多いものです。多くの人の場合、それは夢だけに終わってしまいますが、僅かながら留学を実現させた人もいます。自分を中心に生活を考える留学生と違い、工藤さんのいらっしゃるABKは留学環境を整えるために50年奮闘して来られました。日本国内政治の動きや国際関係の変化に翻弄されながらも、留学生のためという信念を曲げることがありませんでした。ABKのような組織は、アジアの学生にとってどれだけ心強い存在でしょう。ABKにお世話になった元中国人留学生が、会場にたくさん集まったのもABKの強い求心力の表れに違いありません。 講演を聞きながら考えました。心にゆとりのある人でなければNPO活動は成立しません。留学がきっかけで、自分はNPOの存在を知り、関わるようになりました。精神的に豊かな方のそばにいるだけで励まされます。もっと精神的に成長しなければならないと切実に感じました。     ◆ フォーラムの写真は下記URLよりご覧いただけます。   延辺フォーラム   北京フォーラム      
  • 2008.03.03

    第7回日韓アジア未来フォーラム「東アジア協力の過去、現在、未来: 日韓アジア未来フォーラムのあり方を念頭に置きながら」報告

    2008年2月23日(土)、季節を忘れて、グアムのシェラトンホテルで「東アジア協力の過去、現在、未来: 日韓アジア未来フォーラムのあり方を念頭に置きながら」をテーマに第7回日韓アジア未来フォーラムが開催された。7年目を迎え、一種のsabbatical leaveという性格もあわせもった今回のフォーラムでは、日韓両国で3回ずつ行われたこれまでのフォーラムの成果と意義、問題点などについて振り返りながら、東アジア協力の過去、現在、未来について議論を行った。また、これからのフォーラムの進め方についても自由に意見を交わした。   グアムという場所の制約やテーマの性格などを考え、今回のフォーラムは非公開で行われた。米国領のグアムを訪れる観光客の7割以上が日本人であるが、近年は韓国人が増えているという。また、地理的には東南アジアに近く、日韓アジア未来フォーラムを開催するのにぴったりであった。   フォーラムでは、韓国未来人力研究院の李鎮奎(イ・ジンギュ)院長と今西淳子(いまにし・じゅんこ)SGRA代表による開会の挨拶に続き、4人の研究者による研究報告が行われた。まずSGRA研究員であり北陸大学の 李鋼哲(り・こうてつ)氏の研究発表は「北東アジア経済協力の展望 」をより具体的に明らかにするものであった。SGRA研究員のマックス・マキト氏は、「東アジア地域協力におけるアセアンの役割」について力説した。東京大学の木宮正史(きみや・ただし)氏は「東アジアの安全保障と共同体論」について、そして最後の発表者として延世大学の韓準(ハン・ジュン)氏は「東アジア協力におけるソフトパワーの役割」について発表を行った。   3時間に及ぶ報告と討論の後の第2セッションでは、嶋津忠廣(しまづ・ただひろ)SGRA運営委員長により、これまでの日韓アジア未来フォーラムの成果について報告が行われた。10ページほどの写真付の資料をもとに、これまでの楽しく有意義な研究交流活動を振り返る良いきっかけとなった。   嶋津氏の報告を土台に、これからのフォーラムのテーマや進め方などについて様々な提案があり、議論が交わされた。とくに注目すべきは、SGRAと未来人力研究院が異なるアプローチを互いに尊重しつつ、それぞれの強みを生かしながら、これまでのパターンを守り続けていくことで一致しているのが確認できたことである。また、「東アジア協力」と「ソフトパワー」というキー概念を念頭に置きながら、これからのテーマを決めていくことにも合意が得られ、次のテーマは、東アジア協力の大きなファクターとなる中国に対する見方の日韓の違いに注目し、今後具体的に検討していくことにした。   フォーラム終了後の夕食会は、市内の韓国料理店で、野菜もない牛肉だけの焼肉に焼酎バクダンを一気飲みするというややタフな食事会であった。前回の葉山フォーラムと同じく、まもなく「狂乱」の飲み会に変わってしまった。週末ということもあって店の人は呼んでも来ないし、お酒とお肉以外には殆ど品切れ状態だったのでそれが最善だったようにも思われる。2次会は音楽の賑やかなホテル内のバー、そして3次会はフィリピン海を見おろすプールサイドであった。   24日(日)は、自信満々の韓国系グアム人のガイドさんの案内で3時間ほど市内ツアーを楽しむこともできた。とくにツー・ラバーズ・ポイントは、「2回目のハネムーン」中の宋復理事長ご夫妻に思い出の場所となったに違いない。渥美財団主催の夕食会では主催側のご配慮でバーベキューにちょっと贅沢な日本酒を楽しんだが、前日の食事会に比べたらほんとうに穏健だった。この夕食会で「『次の7年目(=第14回日韓アジア未来フォーラム)』にはハワイでまた『3回目のハネムーン』を!」というすばらしいご提案があった。 次の第8回日韓アジア未来フォーラムは、2009年2月に東京で公開で開催する予定です。   -------------------------- <金 雄熙(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee> ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科より修士・博士。論文は「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。韓国電子通信研究院を経て、現在、仁荷大学国際通商学部副教授。未来人力研究院とSGRA双方の研究員として日韓アジア未来フォーラムを推進している。 --------------------------
  • 2008.02.01

    第30回SGRAフォーラム「教育における『負け組』をどう考えるか」報告

    第30回SGRAフォーラムは、素晴らしい晴天に恵まれた2008年1月26日(土)、東京国際フォーラムG610会議室にて晴れ晴れと開催されました。「教育問題」が世間やマスコミを賑わしている昨今のご時勢において、「教育における『負け組』をどう考えるか ~日本、中国、シンガポール~」という今回のフォーラムは非常にホットなテーマであると言わざるを得ません。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する6回目のフォーラムとなりますが、一般的な教育問題を扱ったフォーラムは初めてだそうです。   発表者および発表の流れは以下の通りです:   【発表1】佐藤 香 (東京大学社会科学研究所准教授) 「日本の高校にみる教育弱者と社会的弱者」 【発表2】 山口真美(アジア経済研究所研究員) 「中国の義務教育格差 ~出稼ぎ家庭の子ども達を中心に~」 【発表3】シム・チュン・キャット(東京大学大学院教育学研究科博士課程) 「高校教育の日星比較 ~選抜度の低い学校に着目して~」   基調講演を担当していた佐藤先生は、まず近代教育システムの特徴を説明しつつ、日本の教育モデルとメリトクラシー(meritocracy 能力主義)の現実を明らかにした後、日本におけるメリトクラシーの緩和および教育弱者の厳しい現状について説明しました。そして、教育弱者が社会的弱者になりやすい傾向の中で、彼らが社会に拡散してしまう以前に教育現場において集中的に支援を行なったほうが効率的であると主張しました。非常に濃い内容を簡潔にまとめられた佐藤先生の発表が素晴らしかったこともさることながら、SGRAフォーラムの講演者としては初めての着物姿もとてもステキでした。   二人目の発表者であった山口さんは、中国の都会に住む出稼ぎ労働者の現状とその子どもたちの教育問題に着目し、中国における義務教育の格差問題について報告しました。山口さんはまず中国の教育制度と各教育段階の就学率の推移について説明し、経済発展が著しい中国において国内出稼ぎがどのように発生・拡大していったのか、そして出稼ぎ家庭の子どもの義務教育を受ける権利がいかに草の根レベルでの解決によって制度化されるように至ったのかを詳述しました。データと写真を表示しながら、丁寧に且つ力強く中国の教育現状を訴えた山口さんの発表はとても印象に残るものでした。   最後の発表者の私は、日本とシンガポールにおける選抜度の低い学校に焦点を当て、教育の「負け組」への両国の対処のあり方を比較しながら、教育が果たすべき社会的役割について検討しました。日星両国の高校生を対象とした質問紙調査のデータをもとに、私はまず両国ともに選抜度の低い下位校には学力も出身階層も低い生徒が集まることを示したうえ、シンガポールの下位校生徒が、学校の授業や先生を高く評価し、高い学習意欲と進学アスピレーションを持っているのとは反対に、日本の下位校生徒は授業や先生に対する評価が低いだけでなく、意欲にも欠けていることを明らかにしました。そして、日本の下位校の厳しい現状を言及しつつ、どの国でも下位校が教育的・社会的セーフティネットとなるべく、下位校への投資と改革が急務であると強く主張しました。   「教育問題」は非常に身近でホットなテーマであるだけに、フォーラム当日には会議室の席がほぼ全部埋まるほど参加者が集まりました。パネル・ディスカッションのときも、フロアから質問とコメントが引っ切り無しに出され、会場は盛り上がりました。教育弱者への支援の重要性について意を同じくした参加者もいれば、学力以外にも「生きる力」を柱とした教育の必要性を強く訴えた参加者もいました。教育のあるべき姿を考えるヒントとして、自国の教育制度や自らの体験を熱く語ってくれた参加者もいました。そして、ディスカッションの熱気は冷めることなくそのまま大盛況の懇親会へと持ち越され、最後の最後まで熱い議論が交わされる一日となりました。   当日、SGRA運営委員の足立さんとマキトさんが撮った写真は、下記URLからご覧ください。   http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/   (文責:シム・チュン・キャット)
  • 2007.11.24

    第29回SGRAフォーラム「広告と社会の複雑な関係」報告

    第29回SGRAフォーラムは、2007年11月18日、東京国際フォーラムG510会議室にて、「広告と社会の複雑な関係」というテーマで開催されました。SGRA「人的資源・技術移転」研究チームが担当する4回目のフォーラムでしたが、広告をテーマとしたフォーラムとしては初めてであったともいえます。東京経済大学コミュニケーション学部教授・博報堂生活総合研究所エグゼクティブフェローの関沢英彦先生の基調講演の後、(株)中国市場戦略研究所代表取締役・SGRA人的資源と技術移転研究チームチーフの徐向東さんが『中国における社会変動と企業のマーケティング活動』について語り、また早稲田大学国際教養学部訪問学者、学術振興会外国人特別研究員、SGRA研究員のオリガ・ホメンコが『ウクライナにおける広告と社会の複雑な関係~広告がなかった時代からグローバル化の中へ~』という発表をしました。   今回のフォーラムでは、日本、中国、ウクライナの広告と社会の関係が歴史的な流れの中で紹介され、お互いの共通点と違いについて考えさせられました。   関沢先生は、日本の高度成長期の小津安二郎の映画やテレビCMや雑誌広告など様々な資料を通して、その時代に形成されていた生活モデルについて語りながら、商品広告と人々の意識とのつながり、社会の中での選択の自由とのつながりを説明しました。そしてオイルショック以後、高度成長期の生活モデルが破壊し始める傾向について語りました。さらに、2000年以後の「生活モデル」はテレビや雑誌広告から町のイベントや町の中にある広告やものに転換し始めていることを指摘され、とても面白いと思いました。   徐向東さんは、来年北京五輪を開催する高度成長期の中国で、インターネットや携帯電話の使用者の急増について語りながら、中流階級を形成する一人っ子世代の若者の文化や新しいライフスタイルについて語りとても勉強になりました。それを聞いて社会主義崩壊後の東ヨーロッパとの共通点を考えました。ウクライナでも同じように、政治に無関心で消費に大きな関心を持つ若者が多いのです。まさに彼らの思想は消費主義であり、「心中階層」ともいえます。そして中国の国内の事情をよく理解できないため中国市場で失敗する外資系企業のことも聞いてとても勉強になりました。   私はロシア革命以前、それからソ連時代中の広告、また独立以降のウクライナの広告と人々の新しいライフスタイル形成のプロセスについて話しました。日本の戦後、高度成長期、また今の中国との共通点を考えながら、ウクライナの広告が女性にすすめる「偉大な母親像」と「モダンな女性」という二つの狭いモデル、またポストモダンなインターネットやメディアにあふれる情報世界に生きる人々の「個人性」をもとめる旅、またものや思考の選択の難しさについて考えました。   当初あまり参加者が集まらないのではないかと心配しましたが、結果的には51人もの参加者を得て、会場がいっぱいになりました。ディスカッションの時も、とても興味深い質問がたくさんでて大変盛り上がりました。大量生産や大量消費が生み出す環境問題や自然破壊は三つの国の広告や社会でどのように考えられているか、インターネットの力が増えて紙の新聞や雑誌を読まなくなると広告はどう変わっていくのか、また、商品購入と階級意識がその三つの国でどのように考えられているか話し合いました。商品の「可愛さ」が求められる日本の消費者に対して、「格好良さ」が求められている中国とウクライナの消費者の違いを考えながら、ものを売るための市場、文化、趣味、世代間の意識の違いやその願望の違いについての理解することの必要性について語り合いました。市場調査に加えて、文化的な理解や消費者の世界観を理解すればその市場で成功する可能性が高いということがわかりました。   今回のフォーラムは大変面白くて発表者や参加者にも大変勉強になり、広告と社会の関係をより深く考えさせられたと思います。   当日の運営委員のマキトさんと足立さんが写した写真は、下記URLよりご覧いただけます。   http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/   (文責:オリガ・ホメンコ)
  • 2007.09.22

    第2回SGRAチャイナフォーラム「黄土高原緑化協力の15年」報告

    講演:高見邦雄(緑の地球ネットワーク) 「黄土高原緑化協力の15年:無理解と失敗から相互理解と信頼へ」 中国における第2回SGRAフォーラムは、2007年9月14日(金)に北京大学生命科学学院報告庁にて、9月17日(月)に新彊大学図書館二楼報告庁にて開催されました。昨年10月、「若者の未来と日本語」というフォーラムを、中国で初めて、北京大学の同じ会場で開催しましたが、今回からは、NPOやNGO等の市民活動を紹介するフォーラムを中国で開催することにしました。今年は、まず、中国で緑化協力の活動をしている日本のNPO法人「緑の地球ネットワーク」事務局長の高見邦雄さんに講演をお願いしました。朝日新聞で見つけた高見さんの文章がとても面白かったので、是非お話を伺いたいと思ったのがきっかけですが、その後、SGRA会員の中村まり子さんにご紹介いただき、このように北京とウルムチで実現できたのは、大変嬉しく思います。また、日本語学習者ではない中国の学生さんたちにも聞いていただくために、北京大学日本言語文化学部を通じて最高水準の同時通訳をお願いしました。   緑の地球ネットワーク(GEN)は1992年以来、山西省大同市の農村で緑化協力を継続しています。大同市は北京の西300kmほどのところにあり、北京の水源、風砂の吹き出し口でもあります。そこでは深刻な沙漠化と水危機が進行しています。高見さんはパワーポイントで写真をたくさん見せながら1)沙漠化防止のための植林、2)小学校での果樹園作り、3)自然林の保護という大同で展開する事業を紹介してくださいました。また、非常に厳しい自然条件の上、歴史問題をかかえた大同で活動することの難しさを話してくださいました。初期は失敗つづきでしたが、その後、日本側の専門家や中国のベテラン技術者の参加をえて、だんだんと軌道に乗ってきたということです。また、日本側も中国側も失敗と苦労を通じ、お互いを理解し、信頼しあうようになり、いまでは「国際協力の貴重な成功例」とまで評価されるようになっています。高見さんのお話は、参加者を引き込み「3時間があっという間にたってしまった」というコメントをいただいたほどでした。   その他にも、「黄土高原の厳しさを再認識、日本を再認識できた」「民間協力の実態を知った。一般の日本人の友好的な心がわかった。緑化に関する国際協力の大切さを知った」「高原の水不足の実態を知った。水を節約しなかったことを恥ずかしく思う。今までそのような土地があることすら知らなかった。今後何かしてあげたい」「環境問題はどんどん深刻化している。フォーラムを通じてハイレベルの教育者たちが努力されていることを知り、希望が見えた」などの感想が寄せられており、参加した北京大学と新彊大学の学生さんに対して、大きなインパクトを与えたと思います。   北京では、珍しい大雨にもかかわらず、協賛をいただきました国際交流基金北京事務所の小島寛之副所長はじめ、中国で植林活動をされているJICAのみなさん、GEN大同事務所所長、渥美財団理事長、そして北京大学の学生さん等、100名を越える参加者が集まりました。また、ウルムチでは、新彊大学化学学院長をはじめ、教員の皆さん、そして大勢の学生さんが集まり、300用意した同時通訳用のヘッドセットが足りなくなりました。ふたつのフォーラムを実現してくださったお二人のSGRA会員、北京大学の孫建軍さんと、新彊大学のアブリズさんに感謝いたします。(今西淳子)   ○「土地の行政を超えた協力はあり得ない」と講師の高見さんは言いました。せっかくはるばる外国から協力に来たのに、現地の人々の心だけでなく、行政の「心」も捕まえなければならないという心労は並大抵のものではなかったでしょう。村民と寝食をともにし、心と心のふれ合いができても、いわゆる政府の幹部の妨害に会っては、堪らないものです。初期の失敗はこのような「無理解」から来たものが多かったかもしれません。行政との付き合いは、中国人ですら難しいのに、外国人の高見さんの努力に頭が下がります。   「賢い順に消えていく」日本のパートナー。事の始まりは簡単なものだったようですが、持続の難しさを語る高見さんは、実は持続の大切さを教えてくださいました。事を成功させるには、困難に向かって、一歩一歩、続けなければなりません。言葉の勉強はさることながら、人生そのものに生かしたいものです。北京会場には、多くの日本語学科の学生が来ていました。日本語そのもの、或いは小説、ドラマ、アニメ、ゲームのような日本文化にしか触れていない学生にとって、高見さんの講演、高見さんの行動は異様なものだったかもしれません。日ごろほとんど接する機会がないからです。でも、質疑応答の時に出た質問から見れば、彼らの心に相当な衝撃を与えたように思えます。「大同から脱出した人をどうすれば大同に呼び戻せるのか」という質問は、実は自分に言い聞かしているように思えました。少し離れたところから見ることによって、改めて自己を認識できるという意識の芽生えにつながるといいと思います。(孫 建軍)   ○今回のフォーラムを通して感じたことは多いですが、それを読み易い文章にすることは理科系の研究ばかりやっている私にとって難しすぎます。3日間同行させて頂き、講師の高見さんは、植物を研究する大学教授のように思えました。緑化は自然環境を取り戻すための唯一の手段です。高見さんが15年間続けて来た緑化運動の貴重な経験は元々乾燥地域で、砂漠化が段々酷くなっている新疆ウイグル自冶区に取っても宝ものであると強く感じました。   フォーラムが開くまでは、会場がいっぱいになるか、最後までどのぐらい人が残るかなど色々心配していました。今日、院生から受け取った参加者名簿を見てびっくりしました。なんと391名のサイン!そのなかには新疆大学化学学院、資源環境学院、人文学院、新聞学院、生命学院、物理学院などの教官と学生、日本人留学生、新疆教育学院で研修している高校の先生などがいました。この講演を通して、若い学生が中日両国の民間人の相互理解、国際交流と国際協力に深い関心を持っていることがわかりました。   高見さんの講演は、新疆大学の学生にとって、非常に強い印象を与えたと感じました。フォーラムの後で学生や教官たちが講演内容も通訳も素晴らしかったと私に語ってくれました。今回のフォーラムは新疆大学の歴史では初めて同時通訳で行われたフォーラムとなりました。またSGRAフォーラムでも参加者が一番多いフォーラムになりました。またこの交流活動を続けていくことを願っています(疲れますが)。(アブリズ) ふたつのフォーラムの写真はここからご覧ください   新彊日報の記事はここからご覧ください   「黄土高原だより」に掲載された高見さんのトルファン旅行記はここからご覧ください  
  • 2007.08.01

    第28回SGRAフォーラム in 軽井沢「いのちの尊厳と宗教の役割」報告

    2007年7月21日(土)、第28回SGRAフォーラム in軽井沢が、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で開催された。今回は、SGRA「宗教と現代社会」研究チームが担当する第2回目のフォーラムで、テーマは「いのちの尊厳と宗教の役割」であった。   まず、東京大学文学部宗教学宗教史学科教授の島薗進先生が「いのちの尊厳と日本の宗教文化」というテーマの基調講演を行った。医療技術の発展によって安楽死、臓器売買、代理出産などが可能になり、人の生命が道具のように扱われている。一方、自殺者数は減らず、教育の現場では、子供たちが自分より弱いものをみつけていじめる、さらには「社会を掃除するために」ホームレスを虐待するという社会問題がおこる。これらの現象は根元で繋がっているのではないか。「生命の尊厳」の問題に対して欧米では様々な議論がなされており、カトリック教会などははっきりした立場を示している。しかし、日本の宗教やアジアの宗教文化の立場からの対応はまだ欠如している。アジアの宗教文化の観点から生命倫理を考える必要があるのではないかという問題提起がなされた。   島薗先生の発表に対して兵庫県立大学看護学部心理学系准教授・韓国出身の金外淑さんの質問は、いのちの尊厳をどのように教えることが出来るのかということであった。島薗先生は、いのちの大切さは様々な分野で教えられているが、いのちを尊重する文化を育むことが必要であり、そこで宗教の役割が重要になると回答した。   富山大学経営法学科教授の秋葉悦子先生は「カトリック<人格主義>生命倫理学の日本における受容可能性」について発表を行った。秋葉先生は、中絶問題や生命の誕生(初期胚)や臓器移植について、受精卵を新たな人の命としてみなすカトリック教会のいわゆる人格主義的生命倫理について、ヴァチカンの公式見解を説明した。そして、このような生命倫理的価値観は、生物学の科学的な研究と第二次世界大戦後の国際法の精神に基づく合理的な結論であり、日本での受容の可能性は高いと語った。   秋葉先生に対する東京医科大学大学院博士課程在学生・中国ウィグル出身のアブドジュクル・メジテさんの質問は、ES細胞から人工的に器官を作ることは可能で、それによって様々な病気を直すための実験を行うことができるが、受精卵を新たな人の生命としてみなすというカトリック教会の立場はこの分野の研究を妨げているのではないかということであった。秋葉先生の回答は次の通りであった。ナチス時代には人体が医学実験のために使われていた。カトリック教会が示す生命倫理は科学や技術的発展のために人間の命や人権が奪われないように守ろうとしている。カトリック教会は死後の臓器移植を認めている。   コーヒー休憩の後、高野山大学文学部スピリチュアルケア学科准教授の井上ウィマラ先生による「悲しむ力と育む力:本当の自分に出会える環境づくり」というテーマの発表で、人間は悲しいことをどのように育む力に変えることが出来るのかという内容のものであった。フロイトの対象喪失理論やボウルビィの愛着理論などを紹介し、悲しみを充分に体験しながら人は許しや思いやりなどを獲得し、いのちを育む力を培ってゆくと論じた。井上先生によれば母子関係には人間を育む力があり、それを証するように中島みゆきの「誕生」という曲を聞かせた。   日本社会事業大学大学院博士課程在学生・中国出身の権明愛さんからは、子供ころの精神障害やトラウマは大人になっても残る可能性があるが、それを解決するためにもどのように自分の体験に向かい合うことが出来るのかという問いだった。井上先生は子供への様々な方法でのスピリチュアルケアの必要性を強調した。   最後の発表者は立命館大学産業社会学部教授の大谷いづみ先生だった。「『尊厳ある死』という思想の生成と『いのちの教育』」という題名の発表で、まず尊厳死と安楽死の相違について説明した。そして、様々な事例を通じて欧米や日本社会における「尊厳死」と「安楽死」の受けとめ方について述べた。尊厳死は当事者の自己決定によるものであるとされている。しかし、その自己決定には様々な問題があり、それは「いのちの教育」において課題とされるものであると論じた。   大谷先生の発表に対して東京大学大学院博士課程在学生・韓国出身の李垠庚さんは、韓国では「消極的安楽死」という言葉が使われることを紹介し、尊厳死が安楽死と区別され肯定的に取られてしまう可能性があるのではないかと問いかけた。大谷先生の答えは、死に関する自己決定は「科学的ヒューマニズム」とされており、日本でも道徳的行為とみなされていることに問題を感じると再度強調した。   当フォーラムの前半はこのように4人の講演者による発表と約定質問者による質疑であった。後半(夕食休憩の後)には、フロアからの質問を踏まえながら、「いのちの尊厳と宗教の役割」というテーマのパネルディスカッションが行われた。4人の講演者がパネリストとなり、名古屋市立大学准教授のランジャナ・ムコパディヤーヤが進行を務めた。フロアから様々な質問があった。いのちに関する教育は可能か、そのような教育をどのように行うべきか、文化によって死生観や「いのち」に対する考え方が異なるのに共通な生命倫理は可能か、個人主義を重視するキリスト教的・西洋的な「いのち」観は「無我」を説く仏教的考え方やアジアの文脈において適用しうるのか、宗教的文化的特徴を尊重しながら「いのち」の尊厳を訴えることは出来るのかというような質問があった。パネリストらによる回答がパネルディスカッションをさらに盛り上げ、フォーラムは大盛況であった。   フォーラムの写真は以下のURLをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/   (文責:ランジャナ・ムコパディヤーヤ)  
  • 2007.05.27

    第27回SGRAフォーラム「アジアの外来種問題:ひとの生活との関わりを考える」報告

    2007年5月27日(日)、秋葉原UDX南6階カンファランスにて、第27回SGRAフォーラム「アジアの外来種問題―ひとの生活との関わりを考えるー」が開催された。同会場でのSGRAフォーラム開催は初めてであり、生物学の分野での開催も初めてと、初めてづくしの記念すべき開催であった。また、ブラックバス問題に代表されるように、現在、熱く議論されている問題をテーマとして、今をときめく電脳空間アキバでフォーラムを行うという、その画期的な試みに、気分は否が応にも盛り上がった。   開演時間の午後2時半が近くなるにつれ、用意されていた椅子も徐々に人で埋められていき、会場はほぼ満席となった。   フォーラムは、多紀保彦教授(自然環境研究センター理事長、東京水産大学[現東京海洋大学]名誉教授)の講演「外来生物とどう付き合うか:アジアの淡水魚を中心に」で始まった。多紀教授はご自身がなじみの深い東南アジアの自然環境、魚、養殖、人々のくらしについて、個人的な体験も盛りこみ、ユーモアをまじえながら話してくださった。60年代から今日にかけて、東南アジアをときにきびしく、ときに暖かい目で見続けてきた多紀教授の見解は多くの示唆に富んでおり、魚を専門とされていながら、常に“初めに人間ありき”の視点で世界を見てきた教授ならではのものである。   次に講演を行ったのは加納光樹氏(自然環境研究センター研究員)である。氏は、「外来生物問題への取り組み:いま日本の水辺で起きていること」と題して、外来種をとりまく日本の現状についていくつかの例を用いてわかりやすく説明してくださった。外来種はけっして生物学だけの問題ではなく、文化や経済や政治的な利害も含めた、正に “社会”問題であることが氏の講演からひしひしと伝わってきた。氏のわかりやすい洗練されたプレゼンテーションによって外来種問題の深刻さ、一筋縄ではいかない難しさをはじめて理解した人も多かったのではないだろうか。氏は、「アジアの外来種問題」をテーマとしたフォーラムは初めての試みであり、今後このような場を増やすことが必要と強調された。   最後の講演者はSGRA研究員でもある私、プラチヤー・ムシカシントーン(タイ国立カセサート大学水産学部講師)の「インドシナの外来種問題:魚類を中心として、フィールドからの報告」であった。私は恩師の多紀教授が見守るなかでの講演であったこともあり、緊張しつつ、主に私自らの観察によるインドシナ地域での外来魚問題の現状について話した。講演の後半は最近調査を行ったミャンマーのインレ湖に関してのもので、インドシナの貴重な数少ない古代湖の一つであるインレ湖に現在多くの外来魚が定着しているという現状の報告であった。   コーヒーブレイクをはさみ、フォーラムの後半は講演者全員がパネリストとなり、今西淳子氏(SGRA代表、渥美国際交流奨学財団常務理事)を司会にむかえ、パネルディスカッションを行った。今西氏がパネルディスカッションの進行役を勤めるのも初めての試みであったが、客席との活発なやり取りが行われた。経済を専門にする参加者からの意見もあれば、工学専門の研究者からの意見もあった。いろいろな分野の方々の間での意見交換が行われたことも今回のフォーラムのよかった点ではないだろうか。本フォーラムが、参加者全員にとって、アジアの外来種問題を考えるきっかけになったとしたら、本フォーラムの目的は達せられたのではないかと思う。 (文責:P.ムシカシントーン)   当日、運営委員の足立憲彦さんとF.マキトさんが写した写真は、アルバムよりご覧いただけます。