SGRAイベントの報告

全相律「第5回SGRAふくしまスタディツアー『飯舘村、帰還に挑む』報告」

渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA・セグラ)では、2012年秋から毎年、福島原発事故の被災地である福島県飯舘(いいたて)村へスタディツアーを行っています。今年も、5月13日(金)から15日(日)の3日間、SGRAふくしまスタディツアー《飯舘村、帰還に挑む》を実施しました。

 

「SGRAふくしまスタディツアー」は、今年で5回目。参加者は渥美財団のラクーンメンバー、留学生、大学教授や社会人など10名でした。国籍はアメリカ、イタリア、カナダ、韓国、スウェーデン、日本でまさに「SGRAならでは」の多様な国からのメンバーが参加しました。

 

一日目の13日の朝、9時24分発の東北新幹線(やまびこ113号)で福島に向かった私たちは、「福島市の再生エネルギービル」を訪れました。このビルには、毎年受入れをお願いしている「ふくしま再生の会」の他に、飯舘電力、会津電力、「いいたてまでいの会」などの団体が入っており、互いに交流・協力しながら運営しているとの説明を受けました。その後、福島市内にある松川第一仮設住宅を訪れ、木幡一郎さん(会長)から「仮設住宅での生活」や「帰還に対する不安」について話を伺いました。説明を伺った後は、仮設住宅の敷地内にあるラーメン屋「中華琥珀」で昼食を食べて(琥珀ラーメン、とても美味しかったです)、この日の最後の見学地である飯舘村役場飯野出張所を訪問しました。そこで門馬伸市副村長から2017年3月(予定)からの帰村計画についてお話を伺いました。初日の飯舘村内の見学を終えた私たちは、ふくしま再生の会の活動拠点である霊山センターに到着し、夜は参加者たちが作る各国の手作り料理を食べながら親交を深めました。

 

二日目。午前中はふくしま再生の会の副理事長(福島代表)である菅野宗夫さんのお宅を訪問し、田んぼの「電気柵」作業をしました。午後はNPOプラチナギルドの会と合流し、村内を視察しました。まず、比曽の菅野啓一さん宅を訪問し、事故後の経緯や現状などを説明してもらいました。その後、家の裏手に回りイグネ(屋敷林)の除染や実験小屋の取り組みについても説明を受けました。飯舘村の森林は除染の対象から外されていますが、森林、樹木はどのくらい汚染されているのか、除染はどうしたら可能なのか、などの答えを出すための実験です。話を聞くだけで、その複雑さ、難しさが伝わってきます。

 

その後、立ち入り禁止区域である長泥のゲートや村役場、測定専用車の車庫も見学して回りました。夜は霊山センターの食堂で、村の方や東玉野地区の方なども参加された「大交流会(60名ほど)」が開かれました。かしこまった挨拶は抜きで、それぞれが自由に楽しく言葉を交わし、新たな人の輪ができました。とても楽しかったです。

 

三日目。最終日の午前、小宮の大久保金一さんのお宅を訪ねた私たちは「ふくしま再生の会」の東京大学大学院農学生命科学研究科教授の溝口勝先生の説明を伺いながら、小宮の試験田で除染を兼ねた代かきをしました。トラクターで代かきをした後に続きテニスコートブラシで排水し、これを繰り返しました。こうした作業により、田んぼの除染がどの程度可能になるのか、科学的な理論と、新しいアイディアと、経験をもとにした地道な実験が続きます。

 

その後、菅野宗夫さんのお宅に戻り、昼食のおにぎりを食べながら、宗夫さんのお話を伺いました。そして、参加されたメンバーそれぞれが感じたスタディツアーの感想も語り合いました。

 

出発の前に一番気になっていた放射線数値は、私たちが主に生活や活動をしていた霊山センター、菅野宗夫さんのお宅と田んぼ、小宮の試験田などで0.1~0.3マイクロシーベルト(μSv)程度。最終日に飯館村を発つ時の個人測定器の数値は10~13マイクロシーベルト(μSv)でした。

 

今回のスタディツアーは私にとってまさに「見て、知って、考える」の旅でした。これから宗夫さんの言葉通り「自分が見て体験した被災地のことを忘れず、今自分にできることを考えながら、(段々その関心が薄れていく)福島のことをなるべく大勢の人に伝えていきたい」と思っています。今後リピーターとして飯館村を訪ねる際は、今の「(帰還に対する)不安や恐怖」が「希望や笑顔」に変わっていることを期待しています。

 

 

英訳版はこちら

 

<全相律(ジョン・サンユル)Sangryul JEON>

渥美国際交流財団2016年度奨学生。韓国外国語大学大学院で日本語学を専攻。2009年4月文部科学省研究留学生として来日。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻修士課程を経て現在博士後期課程在学中。専門は言語の普遍性と多様性に基づく日本語学・日韓対照言語学の研究。

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● スタディツアーの写真

 

参加者の感想文を下記リンクからお読みください。

 

● リンジー・モリソン 「忘れ難きふるさと飯舘村に寄せて」

 

● 宮里かをり「見て、聞いて、知って、感じて、考えた3日間」

 

● 李 志炯(イ・ジヒョン)「新たなライフスタイルを目指して」

 

● マックシム・ポレリ「<知る>と<分かる>」

 

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2016年6月23日配信