SGRAイベントの報告

ヴィラーグ・ヴィクトル「第9回SGRAカフェ『難民を助ける―民と官を経験して』報告」

渥美国際交流財団関口グローバル研究会では、2016年4月2日(土)14時半より17時過ぎまで第9回SGRAカフェを開催しました。今回のテーマは『難民を助ける―民と官を経験して』で、講師に柳瀬房子様をお迎えしました。

 

柳瀬様は、今回のテーマの通り、難民支援の「民」と「官」両方の立場を経験してこられました。1979年にインドシナ難民の支援を目的として発足した「難民を助ける会」に設立準備から携わり、現在に至るまでの長年の民間活動に加え、近年は法務省難民審査参与として日本における難民認定行政にも携わっておられます。活動歴は37年にも渡り、難民を助ける会では専務理事、事務局長、理事長を経験され、現在は、認定NPO法人格を得ている同会の会長を務めていらっしゃいます。1992年には、日本に住んでいる難民等の援助を行う国内の活動を担う社会福祉法人さぽうと21を立ち上げました。1990年代中頃に、対人地雷廃絶キャンペーンの一環として、募金を目的として執筆された絵本『地雷ではなく花を下さい』はベストセラーとなり、外務大臣表彰や日本絵本読者賞を受賞しました。今日でも、難民支援や地雷廃絶の分野において国内外で活動を続けておられます。

 

短い時間でしたが、ご講演では1979年に始まった活動が、現在に至るまでどのように展開されてきたかについて、設立当初と今の時代とを比較しながら紹介していただきました。例えば、インドシナ危機が発生した当時は、多くの日本の若者が直接支援のために現地に行きたいという風潮でしたが、30年以上たった現在は、シリア危機の解決に向けて日本から自ら出向こうという人は少なくなっています。また、国内活動においても、当時の民間セクターには、日本が国連難民条約を批准するように圧力をかけるほどの活気があったそうです。その反面、設立当初、IT化や口座振込がまだ進んでいない時代における市民活動の実態、とりわけ非常に手間暇のかかる電話や電報、手紙による通信方法、そして大量の現金書留による募金の描写がとても印象的でした。

 

最近の情報として、日本の難民受け入れの動向と、シリア内戦により大量に発生している難民及び避難民を助けるための取り組みについても教えていただきました。参加者は、日本で行われている難民認定の丁寧なプロセスにおいて使用されている、人をはじめとした様々な資源の多さと、本制度の限界・問題点についても説明を受けることができました。

 

また、シリア問題を受けて、「難民を助ける会」がトルコ国境で進めている取り組みについてもお話を聞けました。その中で、団体の英語名(Association_for_Aid_and_Relief,_Japan、略してAAR_Japan)に「refugee(難民)」という語が含まれていない理由を、支援対象地域の政府との政治的な問題を回避するための配慮と説明していただいた時は、「目から鱗」でした(「我が国には難民問題なんて発生していない」という政府のスタンスへの事前対策です)。

 

質疑応答の中で、海外活動については、例えば現地派遣スタッフの安全管理及びそれに欠かせない教育・研修、他の国際及び現地NGOとの連携のとり方に関する参加者の疑問に対して丁寧に答えていただきました。また、国内の難民受け入れについては、そもそも難民と移民の違い、実際に迫害を受けてきた難民と難民性の低い庇護希望者(日本でいう難民認定申請者)の見分け方、更に言語教育などを含む経済的な自立に向けた社会的な統合の問題についても話し合いました。

 

今回のカフェを通して、国内の文化的なマイノリティを対象としているソーシャルワークに関心をもつ報告者にとっては、特に次の3点が参考になり、考えさせられました。1)世論に膨大な影響を及ぼすマスコミとの付き合い方、つまり「難民」に対してどのような社会的なイメージを、どのように作り、またどうすれば啓発活動を通じて全体的な意識の向上を目指せるか。2)難民を「可哀そうな」弱者として見ない、即ち既にもっている学歴などの人的資本を最大限に活かすための自立支援とは何か。3)他の社会的な課題と同様に、難民の受け入れと社会的な統合において、なぜ「官」ではなく、「民」が主導権をとった方が望ましいのか、そしてどのようにすればそれができるか。

 

非常に有意義な2時間半でした。

 

当日の写真

 

 

<ヴィラーグ・ヴィクトル Virag_Viktor>

2003年文部科学省学部留学生として来日。東京外国語大学にて日本語学習を経て、2008年東京大学文学部行動文科学科社会学専修課程卒業(文学学士[社会学])。2010年日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科前期課程卒業(社会福祉学修士)。同大学社会事業研究所研究員、東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター・フェロー、日本学術振興会特別研究員を経験。2013年度渥美奨学生。2016年日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科後期課程卒業(社会福祉学博士)。上智福祉専門学校、昭和女子大学、法政大学、上智大学、首都大学東京非常勤講師。日本社会福祉教育学校連盟事務局国際担当。国際ソーシャルワーカー連盟アジア太平洋地域会長補佐(社会福祉専門職団体[日本社会福祉士会]内)。主要な専門分野は現代日本社会における文化等の多様性に対応したソーシャルワーク実践のための理論及びその教育。

 

 

2016年4月21日配信