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権 明愛「第46回SGRAフォーラム『インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか』報告」

2014年1月25日(土)午後、東京国際フォーラムにおいて「インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか」をテーマに第46回SGRAフォーラムが開催されました。

 

今回のフォーラムの開催に当たって、最初は障害のある子どもの教育についての話から始まりましたが、企画を進めていく中、インクルーシブ教育をテーマにしたフォーラムへと広がりました。インクルーシブ教育という言葉は、元々障害のある子どもへの教育を考える過程で生まれた概念ですが、ユネスコでは、「学習、文化、コミュニティへの参加を促進し、教育における、そして教育からの排除をなくしていくことを通して、すべての学習者のニーズの多様性に着目し対応するプロセスとして見なされる」と定義しています。このインクルーシブ教育の定義に沿って日本の教育問題を考えると、障害のある子どもの教育問題の他に、外国籍労働者の子どもたち、家庭や経済的な事情により学業に困難を伴う子ども等、色々なニーズを持つ子どもへの対応が求められることが分かります。「学習等への参加、排除をなくす」「多様性への着目と対応」がインクルーシブ教育のキーワードなのですが、上述の多様なニーズを持つ子どもの教育の問題は、教育の周辺課題として扱われてきた印象を受けます。「インクルーシブ教育」という言葉そのものの認知もあまり進んでおらず、インクルーシブ教育を実現していくのにはまだまだ多くの課題があると思われます。

 

今回のフォーラムでは、インクルーシブ教育の実現に向けて、障害のある子どもや外国籍の子どもへの支援の実際を踏まえながら、日本の教育がこれからの子どもの差異と多様性をどう捉え、権利の保障、多様性の尊重、学習活動への参加の保障にどのように向き合うべきかについて議論の場を提供することを目的としました。

 

茨城大学教育学部の荒川智教授は、基調講演「インクルーシブ教育の実現に向けて」において、障害者権利条約と教育条項に触れながら、インクルーシブ教育を、教育システムやその他の学習環境を学習者の多様性に対応するため如何に変えるかを追求するアプローチとし、それを実現するには通常教育そのものの改革が不可欠であると指摘し、学習者の多様なニーズに対応できる通常教育の改革のあり方について丁寧にお話しされました。

 

続いて、特定非営利活動法人リソースセンターoneの代表理事である上原芳枝さんからは「障碍ある子どもへの支援について」、川崎市多文化活動連絡協議会の代表である中村ノーマンさんからは「外国につながりを持つ子どもへの支援について」をテーマに、実践の場の現状とその取り組みについてお話をしていただきました。上原さんと中村さんの講演内容を受けて、SGRA会員で日本社会事業大学社会福祉学研究科博士課程のヴィラーグ ヴィクトルさんと東京大学総合文化研究科博士課程の崔佳英さんが指定討論としてそれぞれ問題提起をしました。

 

3人の講演を終えた後は、休憩をはさみ、フォーラムの第2部であるパネルディスカッションに移り、第1部での問題提起とフロアからの質問をめぐって熱い議論が展開されました。

 

会場からは、「教育現場において、インクルーシブ教育を推進していくに当たって、具体的にどのような取り組みが実際に必要か」「インクルーシブ教育の推進には社会の意識改革が大事だが、まず親や地域が多様なニーズを持つ子どもの、教育に対する意識改革をするのにはどうしたら良いか」等、子育てを終えたお母さんとお婆さんからの質問がありました。また、「子どもの多様性に応えるためには、国の教育政策も大事だが、より現場の実用に合わせて現場から提案し、柔軟に対応していくことが大事ではないか」「子どもの多様なニーズを尊重するためには既存の学校教育の枠組みを崩し、子ども一人ひとりのニーズにあった学びをすれば良いのではないか」等の質問をめぐっての議論も絶えませんでした。

 

会場からのこれらの質問に対し、3名の講師の方からは、「国が多様なニーズを持つ子どもをどのように育てて行きたいのかを考えていく必要がある」、「多様性に応える教育が目指す先にはどのような社会を目指すかの問題があり、子どもの多様なニーズに応えるのには財政的な負担がかかると思われがちだが、合理的な配慮という視点からそのような偏見を見直し、教育財政の正義論の構築も必要である」、「障害児が教育を受ける権利を享受するには長い道のりが必要であった経験から、既存の学校教育の枠組みの中で多様なニーズを持つ子どもへの対応を求めていくことは、子どもの教育を受ける権利の保障に繋がることである」、「学校現場で多様なニーズを持つ子どもを支えていくためには、具体的に教員が子ども同士の関係調整の役割を果たしながら、子ども一人ひとりと丁寧に向き合う眼差しやクラス運営についての工夫が必要である」等の提言がありました。

 

パネルディスカッションでは、予定の時間を大幅に超えて熱気溢れる議論が行われましたが、その後の夜の懇談会では、さらに3人の講師を囲んで、美味しい中華料理をいただきながら教育の話を続けました。

 

フォーラムの企画の段階でも予想がついていましたが、会場の60数名の聴講者の半数以上がインクルーシブ教育という言葉を聞いたことがないと答えていました。このように、インクルーシブ教育を実現していく道のりはまだまだ長いですが、今回のような場を設け、議論を重ねていくことが大切なのではないかと思います。ご講演いただいた3名の講師の方と、インクルーシブ教育に興味関心を寄せてご出席された参加者のみなさまと、このような議論の場を設けてくださったSGRAの皆さまにお礼を申し上げます。

 

(注:「障害」に関する表記には、他に「障碍」「障がい」等があります。本文においては「障害」を使用し、上原さんについての記述箇所はご本人の発表資料の表記に従い「障碍」としました。)

 

当日の写真

 

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<権 明愛(けん・みんあい)☆ Quan Mingai>

十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科専任講師。中国で大学を卒業して来日し、埼玉大学教育学研究科で教育学修士、日本社会事業大学社会福祉学研究科で福祉学の博士を取得。障害者支援施設での実践アドバイザー及び保育園での発達相談等の活動をしながら障害児者の教育、福祉に関する実践研究を行っている。主著に『自閉症を見つめる-中国本土における家庭調査研究と海外の経験』(中国語、共著)、『成人知的障害者及び家庭の福祉政策』などがある。

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2014年3月5日配信