SGRAイベントの報告

金 兌希「第3回SGRAワークショップin蓼科『ひとを幸せにする科学技術とは』報告」

渥美国際交流財団2014年度蓼科旅行・第3回SGRAワークショップin蓼科は、2014年7月4日(金)から6日(日)の週末に行われました。ワークショップでは、「『ひとを幸せにする科学技術』とは」をテーマに、講演やグループディスカッションなどが行われました。

 

7月4日の早朝、現役・元渥美奨学生らを中心とした約40人の参加者は新宿センタービルに集合し、貸切バスで蓼科高原チェルトの森へ向かいました。旅路の途中、SUWAガラスの里ではガラス工芸品の鑑賞を、諏訪大社上社本宮ではお参りをしました。渋滞に巻き込まれることもなく、予定通り16時過ぎにはチェルトの森にある蓼科フォーラムに到着しました。チェルトの森の自然は素晴らしく、空気がとても澄んでいて、自然に心と体が休まっていくのを感じました。

 

夕食後、オリエンテーションとアイスブレーキングが行われました。アイスブレーキングでは、それぞれの趣味や家族構成などの簡単な紹介から、自分のこれまでの人生のモチベーショングラフを作成し説明し合うなど、短いながらも密度の濃い交流時間を持ちました。普段の会話では話すことがあまりないような、それぞれの人生や価値観などについても垣間見ることができるような時間でした。

 

7月5日、朝から本格的なワークショップが開催されました。ワークショップは、大きく分けて、講演とグループディスカッションで構成されました。

 

最初に、立命館大学名誉教授のモンテ・カセム先生による講演、「次世代のダ・ヴィンチを目指せ―地球規模の諸問題を克服するための科学技術イノベーションに向けて―」が行われました。カセム先生は、専門も多岐に亘るだけでなく、大学や国連など、様々な領域で活躍されてきた経歴をお持ちで、講演内容にも多くのメッセージが含まれていました。その中でも、先生が強調されたのは、学際的なコミュニティーで行われる「共同」作業が生み出すイノベーションが持ち得る大きな可能性でした。先生は、そのような共同作業が生み出す、新たなものを創造していくエネルギーを、ルネサンスを築いたダ・ヴィンチに見たて、現代の諸問題を克服していくために有用に活用すべきだと力説されました。講演の中では、その実例として、カセム先生自身の京都とスリランカのお茶プロジェクトの取り組みについての紹介などがありました。さらに、そのようなイノベーションを達成するには、個々人の専門をしっかりと持つこと、そしてネットワーク、コミュニケーション等が重要であると説明されました。講義の後には、活発な質疑応答も行われ、講演に対する高い関心が窺われました。

 

午後のワークショップは、参加者を6つのグループに分けて進められました。最初に、いくつかの代表的な科学技術を象徴する製品の落札ゲームが行われました。各グループには、仮想のお金が与えられ、その中で自分たちが欲しいと思う製品に呼び値を付け、落札するというものです。その過程で、なぜその製品(科学技術)が重要であるのか、各グループで議論し考える時間が持てました。

 

次に行ったのは、グループディスカッションでした。全てのグループに、人が幸せになるためのイノベイティブな科学製品を考案するという課題が出されました。グループごとに人の幸せとは何なのか、その幸せを促進できる科学技術はどのようなものなのか、議論が行われ、模造紙に科学製品を描いてまとめる作業をしました。

 

7月6日の最終日には、各グループが考案した製品を発表する時間を持ちました。それぞれのチームから、とてもユニークなアイディア製品が紹介されました。具体的には、瞬時に言語に関係なくコミュニケーションを可能にするノートパッド、インターネットを利用した全世界医療ネットワークシステム、人型お助けロボット(オトモ)、健康管理から睡眠時間を効率的に調節できるなどの機能を持った多機能カプセルベッド(ダビンチベッド)、地域コミュニティー再生のための技術などが提案されました。各チームが考案した製品は、医療格差、介護、社会の分断化など、現代社会が直面している諸問題を反映し、それに対するユニークな解決策を提示していました。

 

各グル―プが発表を行った後は、エコ、利潤性、夢がある、の3つの基準をもとに、参加者全員による評価が行われました。その中で、総合的に最も高い評価を得たものが、コミュニティー再生のための科学技術を提案したグループでした。このグループは、希薄化されている地域コミュニティーの再生こそが人の幸せに繋がると考え、個人の利便性ばかり追求するのではなく、コミュニティーの再生に目を向けるべきだという主張を行いました。科学技術そのものよりも、地域コミュニティーの再生を謳ったグループが最も多くの支持を得たことは、とても興味深い結果でした。参加者の多くが、コミュニティーの喪失を現代における大きな問題点だと認識しているということがわかりました。

 

最後に、全員が一人ずつ感想を述べる時間を持ちました。参加者からは、多様な専門分野や背景を持った人々との議論が面白く、勉強になったという意見が多く挙がりました。個人が各々の専門をしっかりと持ちながら、学際的なコミュニティーの中で問題の解決に取り組むときこそイノベイティブなことができるという、カセム先生の講演を今一度考えさせられました。

 

ワークショップを終えた後は、ブッフェ形式の昼食をとり、帰路につきました。帰路の途中に、蓼科自由農園で買い物をし、予定通り19:00頃には新宿駅に着きました。

 

今回のワークショップは、全ての参加者が積極的に参加できるような細かなプログラムが用意されていたため、短時間で参加者同士の密接なコミュニケーションを図ることができました。また、蓼科チェルトの森の素晴らしい自然も参加者の心をより開放する一助となりました。今回のワークショップでできたコミュニティーやその経験は、今後の学際的な、そしてイノベイティブな活動を行うエネルギーへと繋がっていくことと思います。

 

ワークショップの写真

 

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<金兌希(きむ・てひ)Taehee Kim>
政治過程論、政治意識論専攻。延世大学外交政治学科卒業、慶應義塾大学にて修士号を取得し、同大学後期博士課程在学中。2014年度渥美財団奨学生。政治システムや政治環境などの要因が市民の民主主義に対する意識、政治参加に与える影響について博士論文を執筆中
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2014年9月24日配信