SGRAイベントの報告

王 雪萍「第5回SGRAカフェ『一私人として見た日中・日韓関係』報告」

第5回SGRAカフェは2013年12月7日(土)17時より、東京九段下の寺島文庫みねるばの森で開催されました。衆議院議長、外務大臣を長年務めた元自由民主党総裁の河野洋平氏の「一私人として見た日中・日韓関係」と題するご講演の後、イギリスから帰国して成田から駆けつけてくださった日本総合研究所理事長の寺島実郎氏から世界情勢を含めたコメントがありました。セグラ会員や渥美奨学生約40名が参加し、質疑応答を通して活発な議論が繰り広げられました。

 

今回のカフェは、河野氏のご講演を伺うだけでなく、同氏とSGRA会員の留学生や元留学生との交流も目的とされていました。河野氏は従軍慰安婦に関する「河野談話」等でアジアからの留学生に人気が高く、講演が始まる前から会場は熱気に包まれていました。今回のカフェのコーディネーターで司会を務めたセグラ参与の高橋甫氏がいくつかのエピソードを交えて河野氏をご紹介し、聴衆の期待はますます高まりました。

 

講演開始早々、河野氏は悲痛な声で「日本にとっては、中国と韓国ほど、大事な国はありません。中国と韓国とうまく付き合えば、日本という国はやっていけると思っています。今の政治状況は、はなはだ遺憾で、最も悪い状況です。一日も早くこの状況から脱出しなければなりません」と述べられました。その後、議員になる前から中国と交流し、香港経由で汽車に乗って、3日もかかって北京へ辿りついたエピソードや、若い頃から鄧小平氏や金大中氏と親密に交流した話を紹介しながら、政治家として日中関係、日韓関係を中心に、アジアにおける日本外交に尽力されたご自身の中国、韓国と交流の歴史と想いを語ってくださいました。最後に「留学経験は非常に大事だと思います。私たち日本人は日本に生まれたわけですが、日本に来ている留学生の皆さんは、ご自身の選択によって日本を留学先として選んだのです。そこに大きな期待をかけています」と講演を締めくくりました。

 

講演後、予定時間をはるかにオーバーして、アジアからの留学生・元留学生からの質問に次々と的確に答えてくださいました。数々の質問から、近年著しく悪化した日中・日韓関係の影響で、日本で生活している中韓両国の留学生の生活まで大きく影響されている様子が浮かび上がりました。しかし、その苦しい状況を十分理解していると前置きした後、河野氏は「私としては頑張ってもっと日本でやっていっていただきたい。今、日本の社会的な雰囲気は甚だよくない。しかし、これは日本の社会の普通の状況ではない。ヘイトスピーチは遺憾であるが、日本人の多くがそう思っているわけでは決してない。いつか必ず理解しあう状況を作らなければいけない」と関係改善への努力を強調しました。そして河野氏は、今硬直している日中・日韓関係を改善するために、お互いに譲歩することの大切さを訴えました。

 

「今日のアジアにおける政治家は、昔のような大物が殆ど見られなくなりましたが、現在の日本の政治家に対してどのように思われますか」という質問に対して、河野氏は政治家の資質の変化は世界の趨勢の変化と連動していることが関係していると指摘しました。その上、日本の政治家の変化は、政治家としてのキャリア不足が目立ち、それが政治の混迷につながっていること、特にその原因として、派閥による教育機能が希薄になり、先輩政治家からの知識の継承ができなくなっていることが大きな影響を与えているとの指摘があり、とても興味深いと思いました。

 

河野氏の講演と第一部の質疑応答が終わったところで、寺島実郎氏からコメントがありました。まず、寺島氏が北海道の高校生の時に、渥美財団の渥美伊都子理事長のご尊父である鹿島守之助氏に手紙を書いたところ、所望のクーデンホーフ・カレルギーの書物を送ってくださったというエピソードが紹介されました。寺島文庫2階のミニアーカイブスには、渥美理事長より寄贈されたクーデンホーフ・カレルギーの翻訳本や日本外交史全集が保管されています。寺島氏はイギリスから帰国したばかりということもあり、欧州情勢を紹介しました。イギリスの雑誌『The World in 2014』では、米中の力学が世界を動かすもっとも大きな要素としてあげられ、6月の米中首脳会談、7月の米中経済戦略対話、11月のバイデン訪中を見て、米中関係は日米関係よりはるかに深いレベルでコミュニケーションが取れていると報告しました。しかし、日本のマスコミは日本と関係ないことを殆ど取り上げません。次元の低い小さなナショナリズムにとらわれてしまい、本当の国益を追求できない状態になっています。イギリスは嫌われずに植民地から去る技を持っていましたが、それができなかった日本は近代史における段差を埋めることが大事であり、小さな猜疑心、嫉妬心からの足の引っ張り合いから脱出しなければいけないと強調しました。

 

両氏の講演、コメントを受けて、第二部の質疑応答の時間では、「日中韓の首脳会談を実現するためにどのような譲歩が必要なのか」、「中国と韓国のナショナリズムをどのように見るべきなのか」、「北朝鮮問題について日韓両国はどのように対処していくべきなのか」、「日韓・日中関係の改善に向けてリベラルな政治家、外交官を育成するのには、どうすればよいのか」、「金大中大統領の訪日の時に行われた日本政府による謝罪の経緯はどうだったのか」等など、来場した留学生・元留学生より、東アジアの国際関係をめぐる問題がたくさん提起され、河野氏と有意義な意見交換の場となりました。

 

講演会終了後、引き続き同会場で懇親会が開催され、参加者はさらに議論を深めることができ、忘れがたいひと時になりました。

 

当日の写真は下記よりご覧ください。

 

ゴック撮影

 

太田撮影

 

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<王 雪萍(おう・せつへい)WANG Xueping>

1998年に来日、2006年3月に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士後期課程修了、博士(政策・メディア)。専門は戦後日中関係。慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所助教、関西学院大学言語教育研究センター常勤講師、東京大学教養学部講師を経て、現在東京大学教養学部准教授。著書に『戦後日中関係と廖承志――中国の知日派と対日政策』(編著、慶應義塾大学出版会、2013年)、『改革開放後中国留学政策研究―1980-1984年赴日本国家公派留学生政策始末』(単著、中国世界知識出版社、2009年)、その他著書や論文多数。

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2013年12月25日配信