SGRAイベントの報告

エッセイ349:ボルジギン・フスレ「ウランバートル・レポート2012夏」

2012年は、ユーラシア大陸をまたぐ世界史上で最大のモンゴル帝国を築いたチンギス・ハーンの生誕850周年である。関口グローバル研究会(SGRA)がモンゴル科学アカデミー国際研究所、歴史研究所と共催した第5回ウランバートル国際シンポジウム「チンギス・ハーンとモンゴル帝国――歴史・文化・遺産」は7月24、25日にウランバートル市のモンゴル日本人材開発センターで開催された。本シンポジウムは在モンゴル日本大使館、モンゴル・日本人材開発センター、モンゴル科学アカデミー、モンゴルの歴史と文化研究会、モンゴル・ニューステレビ局(MNCTV)の後援をえた。

シンポジウムの準備のため、私は7月22日にウランバートルについたが、予約したホテルはすでに満室になっているため、隣のホテルに泊まることになった。その日についた他の方も、同じホテルに泊まった。

翌23日の午前、新聞社の取材を受けた後に、実行委員会のモンゴル側のメンバーと打ち合わせをし、在モンゴル日本大使館の書記官青山大輔氏と連絡をとった。午後にはモンゴル・日本人材開発センターのKh. ガルマーバザル総括主任、神谷克彦チーフアドバイザー、佐藤信吾業務主任に挨拶した。そして、国際研究所の職員と一緒に、会場、同時通訳設備のセッティング、名札の印刷などを確認した。その後、空港にて、今西淳子代表、愛知淑徳大学准教授藤井真湖氏をむかえた。

24日の午前、快適な雰囲気のなかで、今西代表が内モンゴル歴史文化研究院長孟松林氏と会談をおこない、私は通訳をつとめた。

シンポジウムは同日午後から始まった。開会式は午後1時からの予定だったが、私達が会場についたところ、新聞社やテレビ局の記者がおおぜい押し寄せてきて取材をしたため、開会式は少し遅れて始まった。

開会式では、モンゴル科学アカデミー国際研究所所長のL. ハイサンダイ(L. Khaisandai)教授が司会をつとめ、在モンゴル日本大使館林伸一郎参事官、モンゴル科学アカデミーT. ドルジ(T. Dorj)副総裁、と今西淳子SGRA代表が挨拶と祝辞を述べた。続いて、モンゴル科学アカデミー会員、国際モンゴル学会(IAMS)名誉会長Sh. ビラ(Sh.Bira)教授、一橋大学田中克彦名誉教授(代読)、内モンゴル歴史文化研究院長孟松林教授が基調報告をおこなった。その後、5人の発表者が歴史や軍事の視点から、チンギス・ハーンとモンゴル帝国について発表をおこなった。その日の夜、ケンピンスキーホテルで、モンゴル科学アカデミー国際研究所と歴史研究所主催の招待宴会がおこなわれた。

翌25日の発表は、政治、文化、民族、遺産などの視点から、チンギス・ハーンとモンゴル帝国について議論を展開したものであった。SGRA会員、フィリピン大学講師フェルディナンド・マキト(Ferdinand C. Maquito)氏は大学の仕事の都合でシンポジウムに参加できなかったが、その論文「チンギス・ハーンとフィリピンの黄金時代」は代読され、たいへん注目された。SGRAのモンゴル・プロジェクトは、2007年に企画され、2008年に正式にはじまり、これまで5回シンポジウムをおこなってきた。マキト氏はウランバートルには一度も訪れたことがないが、実際、裏でこれらのシンポジウムの準備活動に携わってきたことをここで特記し、感謝申し上げたい。

その日の夕方、ウランバートルホテルで、SGRA主催の招待宴会がおこなわれた。今西代表が挨拶を述べた後、モンゴル科学アカデミー歴史研究所事務局長のヒイゲト(N. Khishigt)氏、愛知大学教授ジョン・ハミルトン(John Hamilton)先生、愛知淑徳大学准教授藤井真湖先生、東京外国語大学の上村明先生等がユーモアのあふれる挨拶を述べ、宴会はたいへん盛り上がった。

一日半の会議で、オブザーバーをふくめて、モンゴル、日本、中国、韓国、フィリピン、イギリス、ロシア、アメリカ、タイ、台湾などの国や地域から百名近くの研究者が会議に参加した。そして共同発表も含む、20本の論文が発表された。(発表の詳細は別稿にゆずりたい)。『国民郵政』や『首都・タイムズ』、『モンゴル通信』、モンゴル国営テレビ局、MNCTV、UBSなどモンゴルの新聞、テレビ局十数社が同シンポジウムについて報道した。

26日、海外からの参加者は、ツォンジン・ボルドグのチンギス・ハーン騎馬像、13世紀モンゴル帝国のテーマパークなどを見学した。写真撮影が好きな、SGRA会員の林泉忠さんは、大草原を見渡して、「これほど美しいひろい草原があるなんて、今ここで死んでもかまわない」とおもわず言った。それを聞いて、みんな微笑んだ。参加者からは「モンゴルの大草原、国全体を世界遺産に登録すべき」という提案もあった。昼食の後、興奮したみなさんは、いわゆる「モンゴル帝国時代の服」を着て、記念写真をとったが、後でチェックしてみたら、妙な感じだった。今西さんはすでにモンゴルの馬になれたようで、馬に乗って、自由に草原をかけ走った。ほかの人たちも馬に乗ったり、らくだに乗ったりした。このテーマパークは、13世紀モンゴル帝国の宗教、民家、学校などのテーマで、特色のある6つのキャンプより構成されているが、各キャンプにつくたびに、みな去るに忍びなかったが、5番目のキャンプ「学問の塾」に到着したところで、すでに帰らなければならない時間になった。結局、6番目のキャンプに行くのを断念し、後ろ髪を引かれる思いで帰りの車に乗った。

シンポジウムの写真
モンゴル国際研究所撮影
フスレ撮影
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ボルジギン・フスレ(Husel Borjigin):東京大学大学院総合文化研究科学術研究員、昭和女子大学非常勤講師。中国・内モンゴル自治区出身。北京大学哲学部卒。内モンゴル大学講師をへて、1998年に来日。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士前期課程修士。2006年同研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学・日本学術振興会外国人特別研究員をへて現職。著書『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、共編『ノモンハン事件(ハルハ河会戦)70周年――2009年ウランバートル国際シンポジウム報告論文集』(風響社、2010年)、『内モンゴル西部地域民間土地・寺院関係資料集』(風響社、2011年)他。
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会議の報道
Sonin.MN
『こんにち』日報社
振興社
科学アカデミー歴史研究所
在モンゴル日本大使館
Zindaa
モンゴル科学アカデミー歴史研究所の発表者に対するインタビュー