SGRAイベントの報告

第1回SGRAカフェ「李元徳:最近の日韓外交摩擦をどうみるか」報告

日中韓台の領土問題で多くの動きがあり、報道を見ている側の頭にも多くの「?」「!」が生まれたと思われる。できるだけ多くの情報に接するように心掛けても悲しいかな、言語、自国内の報道の枠や立場から逃れるのはなかなか難しい。SGRAかわらばんの投稿では「日本からの見方」だけではない考えに接することができた。経済力の急激な高まりやデモの規模の大きさから日中関係に意見は集中しがちだったが、ここで韓国との関係も知りたいところだ。

 

2012年10月18日(木)、そうした中、第1回SGRAカフェは、「最近の日韓外交摩擦をどうみるか」とのテーマで、東京九段下の寺島文庫みねるばの森で行われた。いつものフォーラムとは異なり、20人程度の小規模、場所も文庫カフェという、知的かつお洒落な雰囲気で参加者もくつろいだ表情を見せていた。

 

寺島文庫は日本総合研究所理事長の寺島実郎氏が「4万冊の世界の地歴に関わる書物を集積し、知の交流と発信の場」とすべく設立した研究施設で、驚いたことにここの書庫には寺島氏が高校生の頃、渥美国際交流財団の渥美理事長のご父君の鹿島守之助氏へ宛てた手紙が残されている。また渥美理事長が寄贈された書籍もあり、不思議なご縁を感じながらの開催となった。

 

韓国国民大学日本研究所所長の李元徳教授による講演は、「日韓関係の在り方を規定する構造変化」、「最近の日韓外交の葛藤:観戦ポイント」、「領土、歴史摩擦の悪循環からの脱皮」、「日韓関係の未来ビジョン」の4部から構成されており、まずは2国間だけではなく、冷戦下での米ソ関係が元となっていた日中韓の力関係が、その後再編過程(Power Transition)の進行、力の均衡(Balance of Power)の流動化過程の進行を経て次第に米中両強構図に再編されているとし、東アジア全体の国際秩序の地殻変動の観点から見るべきと指摘した。そしてかつての植民地関係(従属、依存関係)にあった日韓の力関係と市民社会は、現在では相対的に均等化し、競争・競合関係となっている珍しいケースであるものの、一方で対外認識における温度差があり、日本と韓国とでは中国と北朝鮮に対してのとらえ方に悲観的と楽観的な違いがあることを示した。

 

第二の「最近の日韓外交の葛藤:観戦ポイント」において、日本人には納得しづらいであろう李明博大統領の言動を、心理面から考えればわかるのではないかと島訪問の背景にあったであろう慰安婦問題解決や打開への期待について、島訪問から1か月後に大統領に会った李教授ならではの考えを述べた。しかしその訪問が結果として日本側の激しい反発を招いたことへの大統領の驚き、そしてこれまで韓国がどんなに過激な反応や報道をしてもそれを冷静に受け止めていた(成熟した)日本が、今回は冷静に受け止められないことを変化としている。

 

その後のウラジオストックでの日韓首脳の動静や米国の憂慮表明、さらには日本知識人宣言や村上春樹の朝日新聞論説、河野元官房長官の読売新聞のインタビューなどが韓国内の反日ムードを和らげたとし、こうした知識人による声明は日本のみならず中国や韓国でも起きており、普遍的な視点を持った動き、そして歴史を知ることの重要性を訴えた。

 

第三の「領土、歴史摩擦の悪循環からの脱皮」で、今後も日韓摩擦は頻度も深度も深まるとの考えを示し、その動きが法的局面にも移行しているとし、一例に韓国の憲法裁判所、大法院判決を挙げたが、それは日韓の歴史を知らない判事達の判決と批判し、今後ウルトラナショナリストの政治家登場を危惧、歴史摩擦の管理(Management)を次善の策とし、予防外交として戦略的な考慮の重要性を指摘、中長期的及び戦略的観点をもって日韓両国が協力することが双方の利益とまとめた。そして日韓の懸念となっている慰安婦問題については①立法解決、②財団設立による解決、③仲裁、④外交的解決の4つのシナリオを挙げ、その中の④の外交的解決として総理大臣の謝罪を「談話」の形で表明し、対する韓国は補償を求めないという形が100点満点でないにせよ、60~70点の解決ではないかとしている。

 

第四の「日韓関係の未来ビジョン」では、ヨーロッパにおける独仏関係をモデルとし、日韓関係も応用できないかと、市場統合や共同規範を提示した。(クーデンホーフ・カレルギーの「汎ヨーロッパ主義」を日本語に訳したのが鹿島守之助氏だったと、講演直前に寺島文庫の書庫で知り驚いたとのこと)また2国関係だけでなく、世界の中での日韓関係として考えることを挙げ、日韓が未来東アジア共同体形成の共同主役になるべきとして講演を締めくくった。

 

会場からは中国人のSGRA会員から「これまで機能していた棚上げ論が機能しなくなったのはなぜか」等の質問があり、日韓からだけではない見方も出された。講演後の懇親会には寺島氏から日本酒が、渥美理事長からはSGRAのシンボルマークでもある、たぬきの形をしたせんべいの差し入れがあり、フォーラムとはまた違うアットホームな雰囲気で和やかに行われた。

 

当日の写真

 

(文責:太田美行 [渥美財団プログラムオフィサー] )

 

 

2012年10月24日配信