SGRAイベントの報告

第35回SGRAフォーラム「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」報告

 2009年6月7日(日)、東京国際フォーラムにて「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」をテーマに第35回SGRAフォーラムが開催された。
 
本フォーラムは「ITと教育」チームが担当した。昨年フォーラム後の懇親会で話題になった「子どもに携帯電話をもたせるべきか」という報道から発展させ、「ITは子供にどのような影響を与えるのか、本当に子供教育に役立つのか」という問いをベースに、抽象的ではなく、具体的に議論ができるよう、「テレビゲーム」に焦点を絞り、子供に与えるよい影響、悪い影響を考える会として企画された。
 
フォーラムでは、今西淳子SGRA代表の開会の挨拶に続き、3人の専門の先生方とSGRA研究員による研究発表が行われた。

「現代社会はテレビゲームをどう受容してきたか」と題してテレビゲームの影響を多面的に捉える必要性を、東京大学大学総合教育研究センター助教の大多和直樹先生が説いた。大多和先生は、現代社会では、テレビゲームの議論が悪玉・善玉といった具合に二極化されやすいが、ニュートラルにテレビゲームを捉える必要があり、現代の子どもが、管理される学校化社会と、インターネット等による情報化社会の双方に取り込まれつつあることを力説し、さらに、これによる悪影響を学校が排除しようとする動きを指摘し、この排除あるいはコントロールは問題を解決するのかと問題提起した。

東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生は、テレビゲームと子供の肥満の関係性について調査結果を発表した。アメリカでは男子の肥満はテレビ視聴時間と強く関連しているが、女子は運動頻度とテレビ視聴時間の両方が関連しているとの調査結果だった。日本では現段階で信頼度の高い調査・研究は少ないが、過去25年間を見ると、日本の子供たちの肥満者率は増加してきている。さらに、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野客員研究員であるU Htay Lwinさんは研究結果の少ない日本の子供(那覇市、名護市の6歳から15歳の児童)を対象に健康調査を行った結果を発表した。日本でもやはりアメリカと似た結果が出た。
 
最後に、テレビゲームが子供の心理に与えるポジティブな影響とネガティブな影響について、慶応義塾大学メディアコミュニケーション研究所研究員である渋谷明子先生からの報告があった。空間処理能力、視覚的注意、帰納的問題解決能力などが代表的なポジティブな影響で、ネガティブな影響としてテレビゲームの過度な依存による社会性の欠如などが指摘された。ご専門である、子どもの暴力化については、とりあげて心配しなければならないほど強い影響力はないという調査結果がでているとのことだった。

パネルディスカッションでは参加者からたくさんのご質問をいただき、白熱した議論ができた。ゲームの地域性、家庭背景、その人にとって価値などにも関係していることが指摘され、無限に子供にゲームを与える、あるいは必要以上にゲームを制限することの欠点についても討論した。明確な良し悪しの結論は出ないものの、子供の能力を引き出す、あるいは、子供の成長を助けるゲームは存在するのは間違いなく、適宜に教育に取り入れることが必要であるという議論であった。最後にパネル進行役である自分も驚いた結果であるが、会場の40数名の聴講者の約半数が「自分の子供にゲームを与えたい」と挙手によって答えた。時代の変遷に伴い、ゲームに対する観点も変化しつつあり、テレビゲームとのかかわり方も今後少しずつ変わっていくだろうと想像がつく。
 
最後に、この場を借りて、ご講演いただいた4名の先生方と最後まで聴講していただきアクティブにディスカッションに参加してくださった会場の皆様に感謝の気持ちをお伝えするとともに、司会のナポレオンさんおよび会場の設営を手伝っていただいたSGRA研究員のみなさまにお礼を申し上げたい。

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江 蘇蘇(こう・すーすー ☆ Jiang Susu)
中国出身。留学する父親と一緒に来日。日本の高校から、横浜国立大学、大学院修士課程・博士課程を卒業。専門分野は電子工学。現在(株)東芝セミコンダクター社勤務。SGRA研究員。
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2009年6月17日配送