2015年度渥美奨学生研究報告会



2016年3月5日。2015年度渥美奨学生の研究報告会が渥美財団ホールで開催された。快晴に恵まれた暖かい日であった。私は財団ホールまでのゆるやかな坂道を歩きながらちょうど一年前の、心地よい緊張感と期待に包まれていた自分を思い出していた。

一年前その立派な風貌で見る者を圧倒させた雛人形が、今年も階段の上で私たちを迎えてくれた。一時期けがをされていた理事長も無事回復され、開会の際には雛人形のエピソードも交えながら、温かい励ましのお言葉を聞かせてくださった。

そしていよいよ2015年度奨学生の研究発表の時間。一年間とても仲良くさせてもらっていたが、お互いの博士論文の詳細を聞く機会はこれがはじめてかもしれない。奨学生は皆緊張の面持ちながらも、しっかりと自らの研究テーマを発表した。ひとりひとりの研究内容は想像以上に幅広く多様なものであったが、と同時に、「想像以上に内容がわかる!」というのも率直な感想としてあった。 「初めて聞く人にもわかりやすいように」という今西常務理事のタスクを皆が心がけたということでもあったと思うが、それぞれの研究への情熱、そして日本で研究を続けるからには意識せざるを得ない、「研究の立ち居地」における悩みを、我々が共有していたからではないかと思う。

研究発表後、お忙しい中はるばるお越しいただいた先生方から貴重なコメントを頂戴した。まずは私の指導教官である木村秀雄先生が、奨学生の研究内容が全体的に質の高いものであるとお褒めくださり、その「質」は「留学生」であるという条件を取っ払った上での基準であると強調された。そのおことばには、温かい励ましと共に、「女性」「障がい者」「外国人」という枠組みに無自覚的に括ろうとする今日の現状に対するチクリとしたご指摘を感じさせるものであった。

そして財団理事の片岡達治先生は、限られた発表時間内に研究内容を簡潔に伝えることの重要性を話された。テクニカルな側面を越えて、「無駄な部分をそぎ落とす」というプロセスが研究内容そのものの質を高めるということを痛感させるおことばであった。
広田貞雄先生は、ひとつひとつ手づくりの花瓶とお花のプレゼントを用意してくださり、深く感動した。

学部の頃から他の留学生にあまり出会うことがなく、分野を問わず他の外国人研究者と交わる機会を切に願っていた私にとって、渥美財団の一年はその期待をはるかに上回る豊かなものであった。

尾形光琳、満州植民地建築、ジェンダーセクシュアリティ、グラフィックデザイン、居留清国人、生命倫理、日蓮撰、日本語教育、道教、ギリシア哲学、多文化主義、日本文学など。その分野は大いに異なるものの、日本と関わり、日本で研究をしている者として、我々は少なからず「日本研究」に携わっており、これからも関わり続けるであろう。各自がそれぞれの場所で「共同知としての日本研究」をいかに築いていくか、その初めての一歩が今回の研究報告会で確認できたように思う。

一年間良き仲間であった奨学生ひとりひとりはもちろんのこと、たくさんの励ましと慰みをくださった事務局の方々に語りつくせないほど深い感謝の気持ちをお伝えしたい。

当日の写真


(文責:朴源花)