インターネット革命とグローバル化

金雄熙

 


 ただ今、ご紹介にあずかりました韓国のキム・ウンヒと申します。今日、お話し申し上げたいのは、まずインターネット革命に伴うグローバル化の新しい局面について説明させていただいて、2番目として、このようなグローバル化の落とし穴、そして最後に真のグローバル化を促進するための日本の役割について述べさせていただきたいと存じます。

テキスト ボックス:  
図1:グローバル化の新たな局面

テキスト ボックス:  
図2 新しい技術の社会的変容
 まず、グローバル化の新たな局面ですけれども、先程、榊原先生のお話にも出ましたように、その真ん中にはインターネット革命があると思います。(図1)インターネットの影響とか、インパクトは長い話になりますから、簡単に新しい技術の社会的な受け入れをほかの媒体に比べてみますと、5000万ユーザーに受け入れられるのに、ラジオが38年、PCが15年、テレビジョンが13年かかったのに対し、インターネットはわずか4年で5000万人のユーザーを確保できたと、そういう驚くべき事実がございます。もちろん、その質的なインパクトも強いことは既に指摘されておるところでございます。(図2)

 

 次に順次、説明させていただくと、まず電子の新大陸ですが、これはグローバル化の規模が変化しているということです。インターネットが広げる世界はもはや、仮想の空間ではなくて、新たな現実空間になっている。その意味で物理的な空間と、電子空間の融合が起きつつあるということを指摘できます。もう1点は既存の秩序や権威にかかわりなく、小さな国や中小企業、個人にまで大きな成功の可能性が生まれてきているということを指摘することができます。

 

 次に本質の変化にかかわるものですけれども、今は知識基盤社会が質的に変化を重ねているということを指摘することができます。ご存じのように、伝統的な資本主義においては、土地や労働、資本といった生産手段が付加価値の生産の根元になっていたのに対し、知識が基盤となる社会においては、智恵、知識というものが富の基になっているということを挙げることができます。これに関連して、今までよりずっと、挑戦とか創造のマインドが必要になってきているということを指摘できます。

 また現にOECD国家においては、知識基盤産業というのは全産業の5割を占めているのが現状になっております。また多様な活動主体が生まれてきているということですが、伝統的な主体である国家や政府だけでは解決できない問題が顕著になっていることを指摘することができます。これにパラレルに企業とか、地域的コミュニティ、NPO、個人等の役割がますます重視されるようになっています。

 

 4点目として、摩擦ゼロのプロセスです。英語ではfriction freeと表記しますが、産業革命とは異なって、今は世界同時進行のパラダイムのシフトが起こっていることと、テラビット級の大容量の同質のコンテンツがそのままリアルタイムで流通されると、摩擦なしで流通されるというプロセスの変化が、今のグローバル化の4つめの特徴を形成していると思っております。

 

 次にこうしたグローバル化の中で、アメリカ、EUはどのような戦略を展開しているのかというと、アメリカの戦略は情報覇権主義に基づく戦略であると思われます。冷戦の終結と共に、アメリカの覇権戦略は、核の傘から情報の傘へと移行していると言えます。また各種の国際的な調整メカニズムを通して、自国の利益を国際的に拡大再生産することを図っていると言えます。これと同時にアメリカが作ったグローバルなスタンダードの国際的な拡散を図っていると思われます。これに対してEUは、半分閉ざされたグローバル化と言うんでしょうか、ローカルなグローバル化を推進していると思っております。

 

テキスト ボックス:  
図3 Internet users- a global enclave
 このような新たなグローバル化の局面と、アメリカ等の戦略は大変大きな問題を抱えているように思われます。最近、国連開発プログラム(UNTP)が出した報告書を見ますと、そこではグローバル化との関連で、インターネットは不平等の拡大、再生産をするものではないかという問題提起をしています。すなわちグローバル化とインターネットはその基本精神とは違って、Win & Winではなくなっていることを指摘しているわけです。

 具体的にどういう点でインターネットは不平等であるかということを言ってみますと、まず国家間不平等として、OECDの29会員国が世界人口の19%を占めていますが、その人口が全世界インターネット利用者の9割を占めている。とりわけアメリカは全世界インターネット利用者の3割近くを占めている。これに対して南アメリカや東ヨーロッパ、アフリカは1%未満に止まっている現状となっております。(図3)

 

 これと関連して、大きな問題ではございませんが、国家間のインターネット料金を精算するシステムの問題ですが、国際電話とは違って、インターネットでは、アメリカにアクセスするための回線、設備にかかわるコストが全部自己負担になっておりますので、アメリカは一銭も払っていない。電話では5対5ということになっていますが、インターネットでは非常に不平等な仕組みになっているということを指摘できます。

 

 もう少し詳しく、内容別に見てみますと、所得の不平等を指摘することができます。バングラデッシュでは、インターネットのハードウエアとなるコンピューター1台を買うのに、8年間分以上の給料がかかる。これに対してアメリカは、日本も同じですけれども、平均1カ月の給料でコンピューターが買えるという、所得の不平等が一つあります。

 

 もう一つ言葉の問題ですが、英語を母国語とする人口は世界の1割を占めていますけれど、世界のウエブサイトの8割は英語で構成されていること、それも一つの不平等の原因を提供しているように思われます。

 

 教育においても、さまざまな差別がありますけれども、例えば中国のインターネット利用者の中で、6割は大卒である。そういう教育を受けている人と受けていない人との差も非常に広がっている。それがまた国との関連でも広がっていることが分かります。

 

 このほかにも性別ですとか、若者と年寄りとか、エスニシストの観点でさまざまな不平等が拡大、再生産されていることを指摘することができると思います。

 

 このような現状は真のグローバル化、真のグローバテキスト ボックス:  
図4 日本は何をなすべきか
ル・ネットワークであるとは言えません。真のグローバル化を促進するために、果たして日本は何をすべきかと言いますと、まず国際的に共感を呼び起こす情報拠点国家、情報ハブ国家になるべきではないかと思っています。(図4)先程、申し上げましたようなアメリカ中心型の情報覇権主義の歯止めになるということも一つ挙げることができると思います。また先進国の一員として、分権的、平等的、多極的な国際情報社会の実像を形成する役割を一つ挙げることができると思います。また先進国の一員だけではなくて、アジアの一員としてアジア的な価値や歴史的遺産を世界的に普及することも日本の役割の一つではないかと存じます。

 

 次に現在の不平等なインターネット構造、情報通信構造を立て直すために国際的な情報インフラの構築をすることも大きな役割になるのではないかと考えています。またそのインターネットを走る情報の中身、インターネットを利用するソフトウエアの話ですけれども、日本の独創性や、相乗性、そして日本の独創性や強みを生かして、アニメですかとか、コンピューターゲームですとか、そういった情報コンテンツ、そしてデジタル家電、情報家電の世界的な普及も日本の貢献の一つになるのではないかと考えております。

 

 最後に教育との関連でグローバルなコミュニケーションの普及のために、日本が国内的な教育の話もありますけれども、それと並行してODAの観点から、情報化教育を先駆けてやるのも一つ大きな日本の役割になるのではないかと考えております。時間が参りましたので、これで私の発表を終わらせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

 

●金 雄熙(キム・ウンヒ)

韓国電子通信研究院専任研究員

ソウル大学社会科学大学外交学科卒。大韓航空勤務の後日本留学。筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士・博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」1999年より現職。渥美財団1996年度奨学生。

 

目次へ戻る