メキシコの学会参加報告 ―――――――――――――――――――――

キム ウェスク
金 外淑
早稲田大学 博士 (人間科学)
パブリックヘルス・リサーチセンター研究員
1997年度渥美奨学生

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はじめに

 この度、「渥美国際交流財団の海外学習派遣プログラム」を利用する機会を与えていただき、メキシコのアカプルコ(Acapulco)で開催された認知行動療法国際学会(World Congress of behavioral & Congnitive Therapies)に参加した。学会は1998年7月21日〜7月26日までの1週間であったが、せっかくメキシコまで行くのなら、「メキシコ古代都市遺跡の観光もしたい」という希望もあり、学会開催1週間前にメキシコへ出発した。

 出発前日遅くまで、仕事の整理や学会準備などで、飛行機に乗ったその瞬間、今までの疲れがいっぺん出たのでしょう、もう熟睡。・・・ふと気がつくと、外は雲の中。寝ている間に無事に到着。あ!着いた・・と思ったら、サンフランシスコであった。まだまだ、遠い〜。サンフランシスコを経由してメキシコシティに着いたのは、現地時間午後5時であった。

 限られた日数の中で、学会に参加して学んだことやメキシコの多くの文化遺産を訪れて感じたこと、また、旅の出来事について報告する。

 

メキシコの古代都市遺跡の観光

 人口約2000万人を超える大都市のメキシコシティ、都市全体にサボテンが見られると想像していたが、メキシコシティにはあまり見られず、乾燥した空気を肌に感じた。メキシコシティで一晩過ごして、次の日、博物館やメキシコシティの北東に位置するメキシコ中央高原最大の古代都市遺跡を観光することにした。朝の通勤で混雑している市街をバスでしばらく走ると、見慣れた日本企業の名前が目に入ってくる。あ〜向こうには韓国企業の名前もある!

 テオティワカン遺跡は、「死者の通り」と名付けられた通りに沿って遺跡が整然と並んでいて、特に、65mの太陽の神殿と月の神殿は見事!しかし、40度を越える太陽の下で、巨大な太陽のピラミッドや月のピラミッドの頂上まで登ったり、歩いて〜また歩いて〜歴史の勉強(?)はとても大変だった。

 次の日にはメリダにあるマヤ文明の遺跡として有名なチチェンイッツァ遺跡を観光した。その日も外を歩けないほど暑い日だったが、たくさんの人が遺跡を訪れていた。観光途中急に空が暗くなり、私達一行から100mしか離れていないところで雷が落ち、観光客一人が倒れて亡くなってしまうという信じられない出来事が起きた。私達は雨の中を遺跡の出口に向かって夢中で走った。一瞬の出来事で、子どもや女性の泣き声などで周りが大混乱に陥った。目前で雷が落ちたのを見たのは初めての体験だったので心臓が止まるほど驚いた。にもかかわらず、次の日にテンプロ・マヨールやテオティワカン、トゥーラなどの数多くの有名な遺跡を訪れた。さらに、観光中、虫に刺されて(?)その部分が腫れ、熱を出してしまい、薬を飲んだり、予測できなかった出来事でちょっぴり疲れてしまった。

 東京を離れて5日目に、いよいよ今回の旅の目的地であるアカプルコへ向かった。私は大会2日目が発表だったので気持ちを切り替え、発表の準備などで緊張した夜を過ごした。

学会の参加 

 学会は、世界各国から多数の先生方が参加され、シンポジウム、ワークショップおよび個人発表など各分野の研究が発表された。日本からも20名ほどの研究者が参加した。特に今までの学会と違ったのは、学会発表の抄録集が英語とスペイン語の2つの言語で書いていたこと、また、いくつかの会場ではスペイン語による発表もかなり見られた。

 大会第1日目(7月21日)は、教育の分野や医学、心療内科分野での認知行動療法について、それぞれ臨床経験豊かな専門家によるシンポジウムと個人開催のワークショップがそれぞれ行われた。シンポジウムは、Cognitive Behavioral Clinical Work Training and Researchをはじめ59のテーマから成り、その中で、特に関心を集めたのは、認知行動療法で成果をあげつつある疾患に対する治療法を取り上げ、その現状が報告されたシンポジウムであった。参加者と一緒に勉強できるような自由な雰囲気の中で行われ、参加者たちの興味を強くひきつけていた。その他にワークショップは一日中それぞれのテーマで行われたが、クーラーの効きすぎで教室が冷蔵庫のように寒く、気持ちが悪くなってしまうくらいだった。その夜は、学会開始記念のオープニングセレモニーが行われ、メキシコの伝統的な音楽やダンスに圧倒された。

 第2日目からは、口頭発表とポスター発表がそれぞれの会場で行われた。口頭発表はPhobias セッションをはじめ130のテーマ、また、ポスター発表者も130名以上が平行して進めることになっていた。私は「Cognitive Behavioral Health Education for Diabetes patients of self-control」というテーマで発表した。

 今回の学会は何もかも予定より遅れるのが当たり前で何かといらいらさせられることが多かったが、外国の研究動向をよく知る機会になった。また、無事に発表も終わりホッとすると同時に何か物足りない気持ちも残った。日本人のガイドさんが、メキシコシティの地下鉄は時刻表がないのが特徴であると言われた意味が、やっとわかるような気がした。

 東京に戻る前にせっかくだからと、予定より早めにアカプルコを離れ、その日の夜の飛行機でメキシコシティに寄ることにして、時間ギリギリにラスベガスへ向かった。ホテルに着いたらもう夜中の1時を過ぎていた。あ〜!疲れた。アカプルコ→メキシコシティ→L. A→ラスベガスの長い1日の旅、やっと目的地まで着いた安心感から、ホテルの窓からみえるラスベガスのネオンが気持ちをウキウキとさせた。東京に戻るまで何もかも忘れて楽しもう!・・と思いながら深い眠りに落ちた。

終わりに

 短い期間の旅だったが、非常に貴重な経験を得られた気がする。学会発表や研究については言うまでもないが、博士論文の一部分をまとめて発表ができたこと、次に、Ph. D.を取得した後の初めての発表であったため、学生の時とは違う緊張感と責任感を感じたことである。「世界は広くてチャレンジ精神さえあればもっと学ぶことができる」ことをせいいっぱい感じて現実の世界に戻った。

 最後に今回の国際学会の参加の機会を与えていただいたことに対して渥美国際交流奨学財団とそのスタッフの皆様にこころから感謝するとともに、得られた経験や知識をこれからの研究・教育に役立てていきたいと考えている。