日本での留学の感想

そん えんぴん
孫 艶萍

東京大学 博士(医学)
ハーバード大学ブリッガム病院放射線科勤務
在ボストン、アメリカ

 

私が中国に住んでいるときに日本について知っていることと言えば、50年前の戦争のこと、そしてアジアで最も経済的、工業的に発展している国、その程度の普通の中国人が持っているイメージ以外の何ものでもありませんでした。大連から飛行機でわずか1時間ちょっとのこの国は私にとってはじめての外国そして異文化とのふれあいでした。その後4年間日本で生活し、また一部はアメリカでの生活も経験することができました。

東京大学での4年間の大学院生活は私にとって非常に有意義なものでした。本業である研究ではその道のもっとも優れた研究者の指導を受け、生活においても奨学金のおかげであまり大きな心配をせずに日本の生活を楽しむ余裕がありました。またその生活の中で大学の先生、大学院の学生(日本人・中国人・韓国人など)との交流を通して、いろいろな人と出会いました。これらの人間関係は中国にだけいたのでは絶対に得ることのできない私にとってこの留学生活におけるもっとも大きな収穫であったと言っても過言ではありません。

また4年間日本で過ごせたことは私自身にとって大きな自信になりました。どんな人であれ外国で生活することは大きなストレスを伴うものです。その中で生活することができたことは、自分自身のこれからの大きな支えになることを確信すると同時に、一人ではこの留学を成し遂げることは不可能であったというあたりまえのことから、支えてくださった多くの人々への感謝の気持ち、また人間の優しさといったものの重要性を強く感じました。

日本人の最初の印象は冷たく他人に対して無関心である様に感じられましたが、いったん友人になれば一生の友人になれることを実感しました。この4年間の留学生活で中国時代の友人よりも深い人間関係を作ることができた日本人がたくさんいます。実際に今回アメリカでもしばらく生活する機会をえましたが、個人によって差はありますがアメリカ人では友人にはなりやすいものの、真の友人になり得ることは少ないように感じました。日本人は一度友人になると、自分の利益には関係なく友人を助け、またその際にも助けられた友人に引け目を感じさせることがないような心遣いまですることを感じました。アメリカではどうしても契約的で冷たい感じが残るような気がします。

今日もテレビのニュースではユーゴスラビアの戦争のことが報じられています。またインド・パキスタンの核実験のニュースもありました。また日本と中国も過去にそのようなことがありました。しかしながら人間と人間との個人的な関係においては、そのような国家的な争いは意味がないのではないかということを考えさせられました。もちろん個人的にけんかをする人はいるでしょうが、その国の国民すべてが戦争で敵対する国民すべてを個人的レベルでの憎しみでみることはあり得ない、いいかえれば人間はその個人個人でみたときには悪意よりも善意が勝っている生物であるのではないか、ということを考えさせられました。たとえば日本と中国が仲が悪かったとしても日本人と中国人が仲が悪いと言うことにはならないと言うことです。日本人でも中国人でもいい人もいれば悪い人もいる、日本人だからこう、中国人だからこう、ということは何もなく、ある個人それぞれがそれぞれの個性を持って生きている、という最も基本的かつ重要なことに気づかされました。私自身もそうでしたが、そのことを気づいていない人が多く、日本人だから、中国人だからという一つの枠で囲む傾向がお互いにあり、それがいろいろ場面でお互いを知るのにマイナスになることがあるように感じました。

最後になりましたが、この日本での留学生活を支えてくださった多くの人々、奨学金・東京大学・保証人・多くの友人にこの場をお借りして心より感謝いたします。