留学の感想・・大学の事

 

そう   は
曹 波

早稲田大学 博士(設計工学)
早稲田大学理工学総合研究センター嘱託研究員

 日本での留学生活をはじめて6年が過ぎました。学問だけでなく、日本の社会や文化や生活など、いろいろな面についてたくさんの思いが残っていますが、私にとって一番身近な大学の事に関して感想を述べたいと思います。私は日本に来る以前、母国の華中理工大学で助手から講師まで10年間勤務しました。ここで、今在籍している早稲田大学と華中理工大学とを比較しながら、簡単に次のような感想を述べたいと思います。

(1)大学のシステム

 早稲田大学では、現在学生が47,464人、教員が3,080人在籍又は勤務しています。学生と教員は約15対1の比率になっています。華中理工大学の場合は、学生が18,000人くらい、教員が2,500人くらい在籍又は勤務していました。学生と教員は約7対1の比率でした。学生と教員の比率だけではなく、教員と職員の比率も比較してみたいと思います。例えば、現在在籍している早稲田大学の建築学科には教員20名、事務員は1名のみです。華中理工大学の建築学科には教員約30名くらい、専任管理職と事務員は5−6名いました。

以上の数字から考えて、ある程度両国の大学システムの違いを見ることができます。早稲田大学は私立大学のため、日本の大学の全体を反映していると言えませんが、早稲田大学では効率的な大学管理システムで運営されていると感じられます。

(2)大学の基本単位、研究室

 日本の大学では、一般的な研究室の基本的な単位として、教授1名で構成されています。教授1名と助教授1名で構成されている場合もあります。中国の大学でも研究室が最も基本的な単位ですが、これは学科という意味で基本単位から構成されています。研究室は数人の教授、助教授、講師、助手からなります。ひとつの研究室が20名から40名の教員で構成される場合が一般的です。このことは、共同研究と研究における協調性を保つことができるという利点があります。教授と助手の間は上司と部下の関係だけではなく、自由に組み合わせることができるクループの関係が成り立ちます。しかし、実際には以下のようないろいろな問題点も抱えています。まず、研究室は教員全員のものなので、教員の責任を明確にしにくいという点です。各々の講座の担当者が固定できないので、学年毎に決定しなければなりません。また、研究室内の人間関係も複雑になっています。日本の大学の場合、教授の責任が非常に明確であるため、管理しやすくなっています。

(3)先生の指導力

 私が在籍している研究室は、毎年博士課程5〜6人、修士課程1518人、学部卒論生1520人で、構成している学生数が40人を超える大きな研究室です。私が以前勤務していた華中理工大学には、ひとりの先生が修士課程3〜5人、学部卒論生も3〜5人くらいの学生を指導することが一般的です。10名以上の学生を指導することは少ないです。日本に来て初めて研究室に入った時、1人の教授の研究室に上記の人数の学生がいることに驚きました。それだけではなく、先生が担当している講議の数も華中理工大学の2〜3倍になります。例えば、現在、私の先生は1年間に4つ講議を担当していますが、私は華中理工大学で講師をしていた時にひとつの講議しか担当しませんでした。現在の研究室では、毎週会議を行っています。その時に学生が相互に自分の研究を発表し、先生が学生の発表の内容を通して研究状況を判断し、研究の問題点及び研究進路を指導します。40名の学生の各自の研究テーマに対して、それらの進行中の研究状況を即座に判断し、研究を指導することは容易な事ではありません。先生の指導力について、とても印象深い感想が残っています。

(4)学生の学習と生活

 中国の大学は、学生にとって学習と研究の場所だけではなく、共同生活の場所でもあります。大学には研究、学習の施設だけではなく、学生宿舎、学生食堂、運動場、商店、飲食店などの生活施設もあります。学生は皆学生宿舎に住んでいるので、朝通学しないで、直接に講義に行きます。午後の講義が終わると、みなが運動場にいって1〜2時間運動します。夜はまた研究室や図書館にいって勉強します。土、日曜日の夜には、各種のパーティを開催してよく遊びます。日本の場合は、学生が別々に暮らしているので、講義が終わったら、アルバイトをしたり、遊びに出かけたり、研究室にいる時間はあまりありません。中国の大学生は毎日大学のキャンパスで共同で学習と生活をしているので、日本の大学生に比べ、勉強時間が2倍になり、豊な大学生活を送れることは、おもしろく感じます。

 現在、中国の大学は改革やリストラを行っています。これからの大学のシステムも変わっていくと思います。近い将来、私は母国の大学に復職し、教育と研究を続けるつもりですが、学問だけではなく、日本での留学経歴を将来の大学教育に役立てられると確信しています。